ハロー・グッバイ#7 「ちゃんだあ〜超うれC〜。」 「ちょっと、ジロちゃん!抱きつかないの!」 待ち合わせ場所で金色の天使のような髪がこちらへと向ってくる。 あたしが彼に手を振ると彼はここが公共の場だということを忘れ、 思い切り抱きついてきた。正直恥ずかしい。 だって周りの人々が痛々しい目であたしとジロちゃんと見るんだもの。 ペチッと軽くジロちゃんの頭を叩くと、彼はニシシと笑った。 「厳しいなあ〜。折角の久しぶりの再会なのにい。」 そう言ってあたしから離れる。そして屈託の無い笑顔を見せる。 いつみても、彼の笑顔は魅力的だ。マイナスイオンが出てるんじゃないか と思うくらい癒される。自然と自分の表情が和らぐ気がした。 ◆ (もう帰ろう) そう思って一人内に帰宅した打上げの日。女連れの丸井を見たその日の夜。 風呂を終え、髪を濡らしままベットの上に仰向けに寝転がった。 白熱灯の光が眩しい。眩しさに負け瞼を閉じてもまだ光は目に差し込む。 その光を遮るように腕で目を覆う。視界は消え暗闇があたしを包んだ。 今日あった出来事がフラッシュバックする。 丸井と女の姿。 隣にいた女性はいったい誰なんだろう、だとか、 どういう理由で二人は一緒にいたんだろう、だとか、 女性は丸井の恋人なんだろうか、だとか、 丸井はあたしのことが好きなんじゃなかったのか、だとか、 目を閉じて、頭の中に浮かぶ疑問は全て丸井に関わることだった。 隣にあたしの知らない女性がいた、ということを思うと なんともいえない感情が自分の中に溢れる。 嫉妬でもヤキモチでもない、と思う。恋焦がれている、そんな感じ。 ・・・恋焦がれている? (そんな訳ない!) パッと目をあける。あたしが何故丸井に恋をしなくちゃいけないの? 頭を軽く振り体を起す。今日のあたしはどうかしているみたいだ。 こういう時はとっとと寝るのが一番いい。 立ち上がり、髪を乾かそうと洗面所に向おうとした時だった。 滅多に鳴らないあたしの携帯が突如震えた。 “芥川 慈郎” 電話の主の名前を見て微笑した。通話ボタンを押し、電話に出る。 「もしもし?」 「もしもし〜ちゃん?」 電話の彼は昔と変わらないトーンであたしの名を呼んだ。 ◆ 「ナオちゃんは今年で10歳だっけ?」 「そ、生意気な小学4年生。」 「そっかあ。時間が経つのは早いなあ。」 「、その発言おばさん臭いC〜。」 「だって赤ちゃんのころから知ってるんだよ。」 フフッとあたしが笑うとジロちゃんもシシッと笑った。 二人並んで街を歩く。 ああ、この笑い方、昔から知っている。 幼稚園からの幼なじみの彼はあたしにとって一番身近な存在。 二人揃って、氷帝学園幼稚舎に入学して以来、 学年こそ違うものの、6年間同じ学校。 家もお隣同士だったことから、一心同体のように育ってきた。 幼なじみというよりも兄弟に近い。 そして昨日の着信の用件は、 "妹の誕生日プレゼントを一緒に選んでくれ"というもの。 そういえば、と、毎年一緒に買いに行っていたことを思い出す。 転校やら体育祭やら丸井やらでスッカリ記憶が飛んでいたようだ。 あたしは二つ返事でOKをした。そして、今日に至るわけだ。 「何買うか考えてるの?」 ジロちゃんに問う。彼は首をひねりじっと考え込んだ。 「うーん、それが全然思いつかなくて困ってるんだよねえ…。」 「去年は何買ったか覚えてる?」 「それが全く記憶なくて。かなC〜。…あ。」 急に、ジロちゃんが立ち止まる。並んで歩いていたあたしは 彼より一歩前に出た状態。突然足が止まったジロちゃんの方に振り向く。 ジロちゃんはファーストフード店の中をまじまじと見つめていた。 「ジロちゃん、お腹空いてるんの?」 「…ヘヘヘッ。」 「じゃあ何か食べよっか。腹が減っては戦は出来ぬ!って言うし。」 「流石ちゃん!俺の気持ちわかってるう!」 そう言ってジロちゃんはファーストフードへと入っていく。 『ちゃんも早く!』という彼の手招きに従うようにあたしも店へと入った。 ◇ 「丸井先輩、最近不調っすね。」 あ、これマネージャーからっス、と付け足して赤也は俺に ドリンクの入ったボトルを渡す。俺はそれを受け取ると ごくごくと一気に飲んだ。喉から胃に水分が流れていくのが良くわかる。 赤也は俺の横に座ると、俺と同じようにドリンクを飲んだ。 「ぷはー美味い!」なんて親父臭い声を出す。 「何処の親父だよ、お前。」 「ダイブ年くってきたんスよ。俺。」 「俺より年下の癖に何言ってんだ。」 「ヘヘッまーいじゃないスか。それより最近とどうなんスか?」 「ぶっ…」 赤也が直球の質問をぶつけてくる。思わずドリンクを吹き出しそうになった。 俺はギリギリのところで飲み込み、深く深呼吸すると 再びタイミングを見た赤也が話し掛けてきた。 「打上げこなかったのも絡みっスか?」 「打上げ…?あー、そういや案内来てたな。」 「焼肉美味かったっスよ。それから私服姿のも見れましたし。」 赤也はニヤッと笑った。 羨ましいだろ?と目で語る。そして「可愛かったなあ〜」と付け足した。 俺は一瞬むっとしたが、赤也を軽く睨みつけた後、はあ…と長めの溜息を吐いた。 「…完璧元気ないっスね。」と赤也が俺を慰める声が聞こえる。 「のばあああか!」 思いっきり怒鳴るように叫んでみた。が、隣の赤也の脳内に響いただけのようだった。 赤也は煩いと顔をしかめながら耳を塞いでいた。 の名を叫んでも彼女に届くわけではない。それに俺の鬱憤が晴れるかといえば、 寧ろ逆にどうしようもなく、やりきれない想いに駆られるだけだった。 虚しい。 今が何をしているのか、とか、何処にいるのか、とか 無性に気になって知りたくて仕方がない。 ひたすら、彼女に会いと思った。 メールでも電話でも写真でもなんでもいいから、に会いたい…気がする。 (何マジになってんだろ、俺) はあ、っと再び深い溜息を吐き、残り少なくなったドリンクを飲み乾す。 それを見ていた赤也が、同じようにドリンクを飲むとニカッと笑い、 右手の親指を突き出して言った。 「しょうがないっスね!俺が丸井先輩を励ましてあげるっスよ!」< ◇ > (090130)