ハロー・グッバイ#6






「それじゃあ体育祭の成功を祝って…」
「「「乾杯!」」」



カン、と氷とガラス、ガラスとガラスがぶつかる音が鳴り響いた。
それと同時にあたりが一斉に賑やかになる。
ちなみに今は昼1時。


体育祭はあっと言う間に終わった。矢のように過ぎてしまった。
丸井が途中で帰ったあの日、あたしの涙は止まらず、作業も進まなかった。
仕方なく一人で後片付けをし、後日にも手伝ってもらった。
旗の出来栄えは良くも悪くもなかったけれど、まあ作らなかったよりはマシだったかな。

結果は10クラス中6位となんとも微妙な数字。
それでも切原や仁王先輩、あと丸井の活躍は凄かった。
彼らがいなければ最下位に終わっていたかもしれない。


そして現在、前に切原が言っていた打ち上げに来ている。
あまり仲良くない人もいるが、この機会に仲良くなった人もいる。
それはそれで、実行委員をやってよかったかな…なんて思っている。


「、食わねえなら貰うぞ!」
「は?ちょっと切原!あーもう!」


ボーっとしている間に切原に肉を取られた。
(しかもあたしの皿の上に乗っていたやつを!)
切原は(あたしの)肉を美味しそうに食べながら言った。


「…丸井先輩来てないんだな。」
「…そうだね。お金なかったんじゃない。」

適当なことを言う。本当は知らない。

「聞き難いんだけどさ…なんかあったの?」
「別に。」

嘘。あの作業の日以来一度も話してない。笑っちゃう。本来的には話すことのない存在なのに。
廊下であっても前のようにいちゃもんをつけられることも話し掛けられることも無く、
ましてや目が合うことも無くなった。
勿論、丸井はこの打ち上げにも来ていない。

切原はメロンソーダを一口飲むと話を続けた。

「丸井先輩と話してないんだろ。」
「だって話す必要がないもん。」
「…先輩のこと好きなんじゃねえの?」
「別に。」
「…先輩はまだおまえのこと好きらしいぜ。」
「ふうん。」

あたしは興味無さ気に言葉を返すと、烏龍茶を飲んだ。
右手で網の上の肉をひっくり返す。うん、なかなか美味しそう。
切原は言いたいことを言い終わったのか、肉に夢中だ。
それ以降、丸井に関することは一切言わなかった。






◇






(あ、これ可愛い)


焼肉屋を出て、プラプラと適当に街に出た。
辿り着いたのはお気に入りの雑貨屋さん。
値段もそれ程高くなく、デザインも値段のわりにお洒落なのだ。
勿論、何かを買うわけでもなく、ただのウィンドウショッピング。

(…あ!?)

ふと顔を見上げる。ガラスの向こうに赤い髪が見えた。

(…丸井?)

手に持っていたアクセサリーを元の場所に戻して確認をする。
やっぱり丸井だ。あの髪、身長、背格好。
憎たらしいあの男。大嫌いなアイツ。
だけど、どうしても彼の行方が気になって、そっと赤い髪の主を追った。
ストーカー?いや違う。もっと単純な---


好奇心、興味、そんな感じ。


歩く丸井の100メートル程後ろを歩く。
もしかしたら弱みを握れるかもしれない。彼が打ち上げにこなかった理由も
わかるかもしれない。ちょっと探偵気分。
一人で楽しみながら、丸井を遠くから眺めていると一人の女性が彼のもとにやってきた。
親しげに二人は会話を交わすと丸井と女性は並んで歩き出す。


(…なんだそういうこと)


胸が少しだけ苦しくなった。

女とデートだったのか。だから打上げにもこなかったんだ。
別に丸井が誰と一日を過ごそうと、誰の隣にいようと私には関係ない。
関係ないけど、私は何故か拳を握った。
心が酷く締め付けられた気がした。
否、気のせいよ。気のせい。そう自己暗示をかける。






(私を好きって、言ったくせに)(嘘つき)



二人が去るのとは反対方向にあたしも歩き出す。
何故か買い物意欲は失せてしまった。
相変わらず、心は強く締め付けられている。
きっと、丸井を見たからだ。


そう、大嫌いな彼を見たから。














    
(080410)