ハロー・グッバイ#8






わいわいと盛り上げる大きな声、あらゆる場所から鳴る電子音と光。
目の前のワカメは「とりゃっ!くそっ!あ・・ああああ!もう!」
と、右手と左手で上手にボタンを使い画面上の敵を倒していた。


そう、ここはゲームセンター。


「あーこのキャラ使えねえ!」

そう言って赤也は椅子から立つ。画面を見れば≪GAME OVER≫の文字。
赤也が「もう終わっちまった」と嘆いていたが、俺からすれば「やっと終わった」って感じ。
どうやらこの格ゲーは敵にKOされない限り何度でも対戦できるらしい。
赤也はかれこれ5分はこのゲームをしていた。(しかも俺は見てるだけ)

「丸井先輩やります?スッキリしますよ!」
「いい、俺パス。てゆうかお前俺を励ましてくれ筈だったんじゃねーの?」
「へへっ、すんません。夢中になっちゃって。」
「ったく。俺を置いて格ゲーかよ。」

なんて文句たらしてみるが、まあいい気分転換にはなるか。なんて思う。
「あ!UFOキャッチャーありますよ!」と赤也が指差す。
俺は格ゲーの椅子に座らず、そのままUFOキャッチャーの方へ足を運んだ。






◇






隣に歩く金髪の少年を見上げる。彼は満足げな顔をしていて
右手に持っている紙袋をぶらぶらと揺らしている。
おまけに鼻歌まで歌ってる。相当上機嫌みたい。

「ジロちゃん嬉しそうだね。」
「うん、めっちゃ嬉しC〜♪お腹いっぱいになったし!」
「いいプレゼントも見つかったしね。」
「うん!全部のおかげだC〜。」
「そんな大袈裟な。」

彼が買ったのは白い毛並のテディベア。食事の後になんとなく入った店で
見つけたものだが、それが凄く可愛くて、ジロちゃんの妹にぴったりだと思ったのだ。


しかしまあ、目的はもう達成してしまった。
ジロちゃんの妹の誕生日プレゼントも買ったし、あとは帰るだけなんだけど
急いで帰る必要も無いあたし達はぷらぷらと歩いている。

「ちゃん、どっか行きたいとこある?」

ジロちゃんがあたしに尋ねた。

「うーん、特に行きたいとこはないかも。」
「じゃあさ、一緒に来て欲しいとこあるんだけど、いい?」
「うん、いいよ。」

あたしは彼に導かれて再び歩き始めた。





 *





「ここって…」
「そ、ゲーセン!いいからこっちこっち!」

彼はなんの躊躇いもなく店内へと入る。ゲーセンに抵抗があるわけでは無いが、
まさか行きたい所がゲームセンターだとは。予想外だ。

(ジロちゃんってゲーム好きだったっけ?)

彼は店の奥へと入ってく。そして立ち止まった。

視界に広がるのは大きな機械。
それから中高生の女の子がたくさん。

「…プリクラ?」
「そ、一緒に撮ろう☆」


ニコニコ笑って「さ、早く早く」と機械の中へあたしを手招く。
え、え?いきなり?と途惑うあたしを無視して
ジロちゃんもあたし機械の中に引っ張った。






「このちゃんの顔、超変だC〜。」
「そういうジロちゃんだって、この顔半目じゃない!」
「うそうそ、ちゃんはどんな顔でも可愛いよ!」


結局二人でプリクラを撮ってしまった。だが、撮ってみると案外楽しいもの。
あたしとジロちゃんはゲームセンター内の階段近くにあったベンチに腰掛けながら
さっき撮ったプリクラを眺めて笑いあっていた。


「あー楽しい!」


誰かに言うわけでもなく、強いて言うなら空気に吐き出すかのように放った言葉。
それを聞いてか、ジロちゃんは覗き込むようにあたしの顔を見ると
急に真剣な眼差しになった。


「…ちゃん、学校でも笑ってる?無理してない?」
「え、うん。大丈夫だよ。常に自然体だから。」
「本当の本当に本当?」
「本当の本当に本当!」


ジッとジロちゃんの顔をみて目で納得させる。
耐えかねたジロちゃんは「ならいいけど。」と優しい笑顔見せた。


「俺ね、実はちょっと心配だったんだよね。」


彼は静かに話し始めた。


「ちゃんってさ、自覚してないかも知れないけど、凄く美人さんじゃない?
 でもなんか、そのせいで目付けられることもあったからさ。
 立海でも同じ嫌な思いとかしていたら嫌だな〜って思って。」
「ジロちゃん・・・」
「本当に、何か合ったら俺に言えよ?ちゃんのためならすぐ飛んでくから!」


真剣な眼差しであたしを見つめたジロちゃん。思わず身動きが取れなくなった。
間も無くして「どう?かっちょE〜?」と照れ笑いをするジロちゃんは
性格や明るさは変わらないものの、あきらかに昔と違う。
なんだろう、男らしい。
今日会った時は気付かなかったけど、背も微妙に伸びている。
座って同じ位だった目線が、今じゃあたしがやや見上げる形となっていた。
顔周りもすっとしてて、手だって少しゴツイまさに男の子の手という感じ。

心臓がドクン、と一回強く動いた。


「あー、今ジロちゃんが男の子に見えた。」
「酷いC〜!俺は生れた時から男だって!」
「冗談冗談!ねえ、あそこのUFOキャッチャーにポッキーっぽい景品あるよ。
 見てみよ?」
「マジマジ〜!?よーし、俺がちゃんのためにとってあげる。」






◇






「俺、UFOキャッチャー得意なんスよ。」と言いながら
意気揚々と機械に100円玉を投入した赤也はかれこれもう
5回は一つのぬいぐるみに苦戦している。

癒し系のクマだかなんだか知らないけれど、
茶色いのと白いのが厚いガラスの向こうにいる。黄色いヒヨコもいる。


「なあ、お前そのキャラ好きなの?」
「いや、俺はそうでもないッスけど姉貴が。
 あと、女子とかOLに人気らしいッス。」
「何、お前OL狙ってんの?」
「違います!…あーもう!
 丸井先輩が話し掛けるからまた失敗したじゃないですか!」


しらねーよ。と心の中で赤也に返す。
あ、と思い出したように俺は小さく声を漏らすと、ガラスの向こうの
何も考えてない様なグターっとしたぬいぐるみを見て赤也に訪ねた。


「…なあ、それ一般女子には受けるんだよな?」
「えーと。多分女子受けはいいと思いますけど。」
「ふーん、俺取るわ。」





そう言って100円を投入し絶妙な加減でクレーンを動かす。
機械は予想通りぬいぐるみの首を掴み、やや残酷な状態のまま
出口の方へとそれを運び始めた。
やっぱ俺って天才的。


「すごー!丸井先輩上手すぎ。」
「ま、天才だからな。」


調子に乗ってきた、次はどこの景品を狙おうかと思い
辺りを見回す。


(お、なんかお菓子っぽいパッケージがある! )


「よし赤也、次アレやるぞ。」と言った矢先だった。


(・・・?)


目に映ったのは紛れも無く、。
しかも隣には男の影。それも何故か芥川。


一体どうして二人が?
考えても埒があかないが、俺の思考はなんとか追いつこうと必死。
それと同時に、芥川に笑いかけるの笑顔にドキッとする反面、
ぐっと強くきつく心臓を握られたような感覚がする。




俺は白いクマのぬいぐるみをぎゅっと手で掴んだ。
強く握った。
まるで、心臓の痛みをそいつに移すかのように。


















    
(090130)