「誰か、実行委員やってくれませんか?男女一人ずつで」
と蓮二の出会いはこの一言から始まった。
見上げた瞳に映るもの T
立海大付属校では『海原祭』なるものが毎年9月の終わりに開かれる。
これは中高大合同の文化祭であり、一年のメインイベントとも言える。
立海大付属中学校・高校では80%以上の生徒がなんらかの部活に入っており、
中等部の生徒は各学級ごとに、高等部の生徒は部活ごとに屋台を出店している。
焼きそばやクレープ、喫茶店など定番な縁日的な店やお化け屋敷などもあれば、
うまい棒屋といったうまい棒しか売っていない店、
マッサージ喫茶といったただマッサージチェアしか置いていない店など、
珍しい物も。多種多様である。
現在、と蓮二の学級ではその文化祭について、学級討論を行っている。
『縁日をしたい』『お化け屋敷をやろう』 生徒たちは盛り上がっていた。
しかし、冒頭に戻るあの一言。実行委員という任務。
を含む学級の皆は避けている役職である。
文化祭本部と学級とのパイプ役である実行委員は、忙しいに加え、居残りが多い。
また、高校生や大学生の実行委員とも話し合いをするため緊張が多いのだ。
中学生の彼らにとって年上の人間に意見を言う事は容易い事ではない。
出来れば避けたい---誰もが思っている。
学級委員長は困り果てる一方である。
委員長がしてもいいのだが、あまりにも負担が大きすぎる。
委員長は別の仕事もあるのだ。
「お〜い。誰かやらねえか。委員長困ってるぞ」
担任が学級全体を見渡すように言った。
生徒は互いに顔を見合わせるが手は上がらない。
「俺、やります。」
学級の生徒が一斉に手をあげた人物を見る。そして一気にざわついた。
それもその筈である。手を上げた主は-----柳蓮二だった。
『じゃあ、私やろうかな』『柳君なら』 テニス部ファンである女子は目を見合わせる。
実行委員で柳蓮二と二人きり、これほど美味しいチャンスはない。
しかし、女子等のその淡い期待もすぐさま崩れた。
「その代わり、俺から女子の推薦していいですか。」
「あー、いいですよ。」
「さんを推薦します。」
「は?!」
「お願いできますか?さん。」
今度は学級全員がの方を見る。
は行き成りの振りに動揺を隠せない。
推薦されるという事にも驚きだが、推薦者が蓮二という事にも驚きである。
第一、と蓮二はクラスメイトだが一切関わりは無い。
班も係も委員会も部活も全く違うのである。過去に同じになったことも無い。
なのに、なぜ?
の脳内で必死に理由を探しているが全く見当たらない。
「い、いいですけど。なん---」
「じゃあ、決まりです!次に何を出店するか決めます。それぞれ意見を…」
なんで私を推薦したのですか?、理由を最も聞きたかったのに途中で遮られてしまった。
柳を見ようにも一行にこちらを向かない。目も会わせようとしない。
イマイチスッキリしない気分ではその後の学級会を聞いていた。
の学級では喫茶店に決まったらしい。
*
「でもさ、まさかが推薦されるとは思わなかった。
しかも、あの柳直々のご指名よ!?」
興奮気味にが言う。無理も無い。
柳が実行委員になったという事と、
が推薦された事は学年中の噂となっていた。
男子が、よりによってテニス部ということで噂が広がったようである。
「ホント、自分でも吃驚よ。私そんなに責任感とかないんだけどなあ。」
「何言ってるの!責任がどうこうじゃないって。」
「こそ何言ってるの。それ以外に――」
「あたしが思うに、柳はの事が好きなのよ!」
「ぜ・っ・た・い・無い。その考え却下。」
「ビンゴだと思ったんだけどー。まあイイや。
今日の放課後何か会ったら一番に教えてね♪」
「はいはい。…あー、早速委員会あるのか。」
放課後になった。普段は帰宅する者や部活に行く者と決まっているが、
今日は少し空気が違う。実行委員会があるのだ。
実行委員会は立海大学の講堂で行われる。
中等部も高等部も大学部も同じ敷地に設立されているので行く事は難しくは無い。
しかし、迷い易い。一度も行った事が無ければ一層だ。
はどうやって行くか迷っていた。
(一人で行こうかな---絶対迷うから止めた方が良いかも。
誰かと行こうかな---他のクラスの実行委員知らないし…)
少なくとも柳とは行きたくないな、気まずいし。そう思った矢先、
「、一緒に行かないか?」
突然の目の前にあわられたのは蓮二だった。
しかし、ここで断る理由も無い、かといってOKする理由もないが。
(迷うより、まし…かな)
「あー、うん。一緒に行こう。」
*
「「・・・・・・・・・」」
と蓮二の間にはずっと沈黙が続いている。
そもそも、元々二人の間には共通した話題などはないのだが。
はこの気まずさをなんとかしたいと、
蓮二の顔をチラリと見てみるが本人は気がついていないらしい。
ただ目的地を目指して歩いているように見えた。
(何か話さなきゃ・・・えーと)
根本的に沈黙が嫌いなは必死に話題を探していた。
(ドラマの話、芸能人の話---興味無さそう。
先生の話、友達の話---きっとつまらないだろうな。)
ふと遠方をみるとテニスコートが見えた。これだ!
「柳…くんってテニス部だよね。練習厳しい?」
柳の横顔をチラリと見た。振り向いた蓮二と一瞬、目が合った。
(…っ!)
は慌ててテニスコートを再び見た。
心臓がドクドクと波打っている。
気のせいだよ、は自信に言い聞かせた。
「わざわざ『君付け』する必要はない、呼び捨てでいいぞ。
他者から見れば、厳しい…かも知れない。だけど俺はそうは感じないな。
厳しいという感情より、楽しい方が強い。」
「厳しい方が楽しいとか、変わってるね。」
「そうか?厳しい方が遣り甲斐があるだろう?遣り甲斐が楽しさに繋がってくるぞ」
「うーん、私、あんまり感じだことないかも。遣り甲斐とかは。」
「まだ14・15年しか生きてないんだ。これから感じるだろう。」
「そうなるといいんだけどね。」
蓮二と話している間にはずっと抱いていた疑問を思い出した。
こうやって蓮二と話しているそもそもの原因を。
「それよりも---」
「それよりも---『どうして私を実行委員に推薦したの?』とでも言いたいのか。」
「……なんで分かるのかなあ。」
は見事に言い当てられてしまい、少し動揺した。
蓮二は何ともないように平然をを見下ろしている。そして、少し微笑んだ。
の心臓は再びドキッとした。
「幾つか理由があるが、まあ、単純になら頼もしい、と思っただけだ。」
「頼もしい…?全くそんな事ないと思うんだけど。」
「まあ、要するに、テニス部に媚びてなく、かつ責任感も有りそうだからだ。」
「柳、眼鏡かけた方が良いよ。」
「生憎、俺は視力は十分過ぎるほど良い。」
一言で言えば、奇妙。
殆ど話したことのなかった柳と何故こんなに話せるのだろう?
はそう感じた。
テニス部など、近付きたくても近づけない存在だったのに。
(は、近付きたいとは思わなかったが)
なのに、今は右隣に、それも凄く近くに。
蓮二の横顔は、とても綺麗だ。整っている。
涼しげな、凛とした表情にサラサラとした髪。意外にも長い睫毛。浮き出た喉仏。
落ち着いた冷静な声は、の心を休ませた。
蓮二と目が合うと思わず笑みがこぼれた。
こんな所をファンに見られたら------。
はブンブンと頭を振った。
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