雨は嫌い。
髪はうねるし靴は泥だらけになっちゃうし、
本を読んでも雨音が五月蝿くて仕方がない。
でも――――――今はそんなに嫌じゃない。
雨の日の恋人
「、昨日も跡部といたやろ。」
突然。行き成り。登校してきた私に忍足は言った。
ビシッと私を指差したので、その指をのけて私は返事した。
「何で知ってるの。」
「教室から見えたで。二人で仲良く相々傘してるの。」
「しまった。女子が見てたらどうしよう。」
「大丈夫や。傘で顔は見えてなかったさかい。」
こいつまたニヤニヤ笑ってる。むかつく男。
度の入ってない眼鏡がキラリと光ったのが余計に腹立たしい。
鞄を下ろして椅子に座る。鞄から一時間目の英語の教科書でもだそうか、
なんて珍しいことを思っていると、案の定忍足は話を続けてきた。
「なんであんなシチュエーションになったん?」
「忍足に関係ないでしょ。」
「ありあり。これでも俺と跡部はテニス仲間やし。」
興味津々といった感じで私を見る。そんなに面白い話じゃないのに。
授業中もこの話をされるのはおっくうなので、昨日の帰りの出来事を話す。
いちいち「ほお〜」や「ふうん」という忍足の相槌が気になって仕方なかった。
◇
そういえば、今日も跡部に会うのだろうか。授業中にふと思ったこと。
また荷物持ちをさせられるのか。そんなの御免だ。勘弁して欲しい。
跡部の隣は落ち着かない。ハラハラというか地に足がついていない感じがする。
増してや相傘など二日連続でしている自分が信じられない。
帰りのベルが鳴った。廊下をせかせかと歩き階段を降りる。
まだ学校が終わって3分も経っていない。流石に跡部はいるまい。
チラリと玄関を見てみたが、やはり跡部の姿は見えず、
ほっと胸を撫で下ろす。
反面、少し残念な気持ちにもなる。変な気分。
靴を履き替え傘を持ち、校舎を出る。頭だけ振り返って後ろを見たが、
誰も居ない。先生も生徒も跡部も。
一歩また一歩歩いて後を見るがやはり誰もいない。
なんだ、今日は来ないのか。
別に跡部に会いたいわけじゃないけれど、
二度ある事は三度あるっていうくらいだから今日も相傘になっても可笑しくない。
と、自分自身に言い聞かせた。
すこししょんぼりしながら歩き始めると三歩歩いた所で後ろから声を掛けられた。
「オイ!!」
くるっと振り向けば、跡部が酷い雨の中を走ってくる。
ちょっとした青春ドラマのような光景。
私は跡部が近付いてくるのをただ見ていた。
私の傘に入ると跡部は私の手から傘の持ち手を奪った。
そして何事もなかったかのようにひとつ深呼吸をする。
髪も顔も肩も制服も靴も全部が濡れていた。
だって酷い雨だもの。傘も差さずに走ったら濡れるのは当り前じゃない。
呆れつつ、跡部に話し掛けた。
「濡れてるよ。」
「ああ、知ってる。」
「何か用事あるの?」
「特に用はねえ。」
いつも以上に早く波打つ心臓。
自分の耳にはしっかり聞こえている。ドクンドクンという音が。
跡部は手で濡れた髪をかきあげると私を見た。
私もじっと跡部の顔を、目を、瞳を見る。
しばらく目が合っていたが、彼は耐え切れなくなったのかぷいと反らした。
「やっぱり用がある。部室まで送ってくれ。」
跡部は顔を真っ赤にする。あ、ちょっと可愛い。
さっきは用がないって言ったくせに。
「いいよ。」
一言返事をすると私は跡部に微笑んだ。彼もフッといつもの笑いを返してくれた。
昨日一昨日と歩いた道を歩き始める。やはり雨が止む様子はない。
歩いていると、跡部が急に止まった。不思議に思い、私は問い掛ける。
「どうしたの?」
「この傘…。」
「ああ、買ったばかりなの。昨日も見たでしょ?」
「……れるなよ。」
「え?」
雨音が一気に激しくなった。雫が道路にはね靴や靴下に跳ねる。冷たい。
よく聞き取れなかった。跡部の顔をもう一度見る。覗き込むように。
刹那、頬に柔らかいものが当たった。跡部に、キスされた?
そう思った瞬間一気に心臓は跳ね、自分でもわかるほど頬が紅潮している。
跡部はそんな私を見ると『してやったり』という顔をした。
自信満々にさっきの台詞を放つ。
「俺以外の男は入れるなよ。」
仄かに赤くなっている彼の頬。
これは彼の告白と受け取っていいのだろうか。よくわからない。
だが、跡部以外の男と相々傘をする気などさらさらないのも確か。
私は一言、跡部に返した。クスッという笑みと一緒に。
「わかった。」
後日、一年も前から両思いだったと言う事を
忍足から聞いた。奴はそれを半年前から知っていたらしい。
つくづくむかつく男だと思ったのは言うまでもない。
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傘がなくても雨じゃなくても
彼と会える。それだけで、
すごく幸せな気分になる。
[2007/10/21 piyo]