雨は嫌い。
折角アイロンで真直ぐストレートにした髪もくねくねうねるし、
ぴかぴかに磨いたローファーも泥が跳ねて汚くなるし、
じめっとした教室なんかきのこが生えそうで本当大嫌い。
雨の日の恋人
「停滞前線の馬鹿野郎。」
昼休み、窓に向って呟いた私の声は
騒がしい教室にと激しい雨に溶けて消えていった。
私を見て、隣の席の奴は喉でククッと笑う。
「雨に言っても無駄なだけやろ。」
忍足は自席に座ってカバーの付いた本を読んでいた。
私は懸命に彼から借りた数学のノートを必死に写している。
計算式がみっちりと書き込まれたノートと真っ白な自分のノートに視線を交差させつつ、
彼の発言に言い返す。
「雨じゃない。停滞前線に対してよ。」
「変わらんわ。それより昼休みあと5分やで?写し終わるか?」
「え?5分しかないの?まだ5問目なんだけど。」
「はよしい。」
忍足をチラリと見れば、彼とバッチリ目が合った。
そのあと視線を逸らし、自分の左腕につけた腕時計を見る。
本当だ、5分を切ってしまった。急がなければ先生が来る。
シャープペンを懸命に動かしつつ、忍足に話しかけた。
「何の本読んでるのよ。ご丁寧にカバーまでつけて。」
「知りたいんか?」
「知らなくてもいいけどね。」
「官能小説。」
「…リアルに引く。」
「嘘や。冗談。ただの恋愛小説やで。」
「あ、そう。よし!終わった!」
写し終わった二つのノートを閉じて、彼に一つ返す。
すると丁度いいタイミングで鐘が鳴った。忍足は本にしおりを挟みパタンと閉じた。
窓を見てふう、と溜息を一つ吐く。
「今日の部活はミーティングと筋トレか…。」
嘆いた忍足に私は鞄から数学の教科書を取り出しながら言った。
「やっぱ雨って憂鬱よね。」
「そやな。髪もうねって変になってもうしな。」
「それ、私のこと?」
「さあ?」
「むかつくわねえ。」
奴はニヤニヤ笑って私を見た。知ってるわよ。私の髪がうねってることくらい。
晴れの日は真直ぐでも雨の日は仕方がないでしょ。
だから雨は嫌いなの。
髪の毛はくねくねうねるし、靴も泥だらけ。
教室もじめじめで最悪なのよ。
眼鏡の奥の瞳は未だニヤニヤ私を見ている。それがどうしようもなく腹立たしくて、
私は隣の席の忍足の脇腹を強めに突付いてやった。
「ぐえっ。何すんねん。」
なんて言葉が聞こえたけれど、そんなの無視。
只管(ひたすら)、窓の外の激しい雨を眺めていた。
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雨が嫌い。湿気が嫌い。
けれど、今日の雨は何か違う。
そんな気がした。
[2007/10/21 piyo]