笑うなよ、
どうやら、俺は。
「わかしぃ〜。」
「お、やっと来たやん。」
ガラッと教室のドアを開けると、そこにいた人物とバッチリ目が合った。
報道委員会から帰ってきた日吉を待っていたのはと忍足だった。
二人は向かい合うようにして座っている。
机の上にはお菓子の箱が一つと数学の教科書、それから筆箱。
忍足は日吉が来たことを確認すると彼に話し掛けた。
「なんや、委員会長かったんやな。」
「ええまあ。」
日吉は不機嫌に答えた。ギロッと睨み付け、言葉を続ける。
「忍足さんはなんで二年の教室にいるんですか。」
「ちょっとちゃんに頼まれてな。」
日吉はを見る。彼女はえへへっと笑った。
なんとも言えない笑顔に日吉は脱力した。
忍足は立ち上がり、席を立つ。
「ほな、俺帰るわ。ちゃん、また明日な。」
「はい、ありがとうございました!」
は忍足に笑顔を向け、手を振る。
忍足はに微笑み返すと教室を去った。
日吉は忍足が出て行ったことを確認すると、の向かいに座った。
さっきまで忍足が座っていた場所である。
そして徐(おもむろ)に口を開いた。は依然ニコニコ笑っている。
「…なんで忍足さんといるんだよ。」
気に食わない、そんな表情でを見た。
それもそうだ。仮にも彼女が自分以外の男と教室で二人きりだったのだから。
それも向かい合っていた。普通ならば嫉妬をしても可笑しくない。
は少し困惑したように返答した。
「なんでって……勉強会?」
「なんで忍足さんと二人きりなんだ。」
ギッとを見る。は少し怯んだ。
「…明日。」
が口を開いた。日吉はの目を見つめる。
まるで真実を問いただすかのように。
「明日、数学のテストあるじゃない?昨日このままじゃ赤点だ、って
忍足先輩に相談したら先輩が『教えてあげる』って言うから。」
「だからほいほい着いていったのか。」
「違うよ!若と一緒に帰る約束してるからって言ったら、
『ほなら、待っている間に勉強すればええやろ。』って。」
「で、納得したのか。」
「ゴメンナサイ。だって赤点だと追試でしょ?
明日も若と帰りたかったから……。」
「だからと言って忍足さんと二人きりなのは気に食わない。」
「…でも、ただ教えてもらっただけだから!なにもないよ!」
「当り前だ。」
「う……。」
は視線を泳がせた。日吉は立ち上がり、
どうすればいいかわからないの頭にポンと手を乗せる。
「帰るぞ。」
がパッと顔をあげた。
「…!許してくれるの?」
「これから俺の家で勉強会だ。」
「え、もういいよ!数学は。十分解かったし。」
「明日一緒に帰りたいんだろ。」
日吉はニヤリと笑う。その顔は悪戯を思いついた子供の様。
「生憎、俺も数学は得意なんだ。みっちり教えてやる。」
「や、やだ!…若スパルタなんだもん。」
は即座に否定する。日吉は僅かに顔を顰めると、
ゆっくり彼女に顔を近づけ、そっと耳打ちした。
「忍足さんと居た時間分、きっちり俺に返して貰うぜ?」
顔を離すと、がほんのりと顔を赤く染めていた。
日吉はフッと笑うと自分のテニスバックを背負った。
も慌てて机の上のノートやらをカバンに仕舞い、日吉を追う。
誰もいなくなった教室は、夕日に赤く染められていた。
ダレヨリモキミヲ
(笑うなよ、どうやら俺は、お前に本気らしい。)
:::::::::::::::::::::::::::::::::::
日吉の嫉妬。彼は嫉妬深いと思います。
でも屈折した愛情表現をするんじゃないかと。笑
それがまた彼の魅力じゃないかと^^
[08/02/11 piyo]
[08/12/30 修正]