星キラキラ
廊下から、コツコツと足音がする。
幸村の病室は廊下の一番奥にあり、人通りは少ない。
だれだろう、テニス部員は5日前に来たはずなのに、と思いじっと入口を見る。
ガラッ、とドアが開き、病室に入ってきたのは。
手には箱(おそらくケーキであろう)と鮮やかな色彩の花を抱えていた。
「……それでさ、赤也ったらブンちゃんに怒られまくり。それを見て皆で大爆笑しちゃって。」
が楽しそうに話しているのは
先週の日曜日に会った部活での出来事。
赤也が調理実習で作った生焼けのカップケーキと
ブン太が女子から貰ったカップケーキを摩り替えた、という事。
ビックリしたブン太が大笑いしていた赤也に詰め寄り怒られ、
それを他の部員が眺めていたらしい。
「ふふっ、その時の丸井の顔見たかったな。」
「あー!ムービー撮っとけば良かった!今度は撮るね!」
「ああ、楽しみにしてるよ。」
『楽しみにしてるよ。』
幸村はそう言ったものの、どこか心の中で寂しさを感じていた。
『 楽しみにしている=まっている 』
受動的な言葉。
けして直接見ることが出来ないその何気ない日常風景。
こうして誰かがその日の出来事を話してくれるという嬉しさと、
自分ひとりが取り残される気がする空虚感。
複雑な心境だった。
自分の仲間達が自分の知らない世界をどんどんと築いている。
そして自分はただ、それを眺めている。
この白い部屋に入れられた自分。
消毒液の効いた部屋の中にただ独り。
今まで意識をしなかった“死”の世界と向き合った。
とても怖かった。独りだった。
いつまで独りなのか、もしかしたらずっと独りなのか。
---幸村の心は不安でいっぱいだった。
「精市?どうしたの?具合悪い?」
「あ、いや、考え事。」
「・・・・、・・・また不安になってるでしょ?」
幸村の指がビクッと僅かに動いた。図星。
彼は言い当てられると無意識に指が動くということをは知っている。
は幸村の心理をよく理解している。
も幼い頃交通事故に遭い、不安な気持ちを経験した。
そして今の姿がある。死に直面した自分、友達との隔たりを感じた。
「そんなことないよ。の気のせい。」
幸村はふわりと笑って言った。時計が6時を告げる。
はじっと幸村を見た。目は、心なしか哀れんでいる。
「あのね、悩んでること、不安なこと、心配なこと、全部全部、話してほしい。
そしたらね、不思議と気が楽になるんだよ?話しただけなのに!
精市はね、自分の心の中で抑えちゃうことが多すぎるの。
もっとダイレクトに話ちゃお!---ね?」
「・・・。」
「私じゃ言い難いかな?じゃあ問題形式にするよ!番号言ってね。
いち、テニスが出来ないから。
に、えーと…美味しい物食べれないから!
さん、勉強に……」
は指を一本ずつ曲げて選択肢を言っていく。
一生懸命項目を考え、パアッと思いついた様に提案する。
幸村がを見ていると、選択肢は5つを越していた。
はまだ考えている。
不意に写真立てに目をやった。新人戦の集合写真。
皆、身長こそ変わっているもののオーラは変わらない。
王者立海大付属。威厳のなかに団結力を感じた。
今も変わらない団結力。皆で誓った、全国制覇を。
(なんだ、簡単なことじゃないか)
「、ありがとう。大丈夫。」
「・・・?でもまだ選択し言い終わってないよ?」
「大丈夫、解決した。」
「本当?」
「本当。俺、馬鹿だよ。何、不安に思ってたんだろ。
答えは簡単なことだよ。本当、単純。」
「答え・・・何?」
「俺、この部屋に居るといつも独りの気がした。取り残されてる気がした。
皆から話を聞くと、俺の居場所はもう無い気がしてた。
皆はいつも楽しそうで、俺だけ苦しい思いして、寂しさ味わってるって思ってた。
でも、よく思えば違うよな。皆が試合するのと同じで俺は病気と戦ってるんだよ。
俺も敵---病気を倒せばいいんだよ。
そして、皆を信じていればいい。」
幸村はゆっくり瞬きをした。目はしっかりしていて決意を固めたようである。
はふわりと笑って言った。
「そうだね、でも一つ駄目な所がある。」
「駄目な所・・?何処?」
「私も---信じていいからね?」
「当り前だろ。」
幸村はをそっと抱きしめた。大切な、パートナーを。
窓の外では、星が輝いていた。
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精市、病院にて。
取り残される不安は、誰にでもあると思います。
気まずさとか、ぎこちなさとか。
でも、立海は信頼し合ってるから、大丈夫。
それに気が付いた幸村のお話…みたいな感じ。
[07/02/26 piyo]
[08/12/21 修正]