図書室と彼 「あのー。」 「…zzz」 「あのー、すみません。」 「…zzz」 「あの!」 毎週木曜日、越前くんはいつもカウンターに座っていて、 毎度決まって腕を組んで寝ている。 すー、なんて小さく寝息を立ててるけど、 図書室自体が静かだから寝息さえも響いて聞こえる。 否、私が聞こうとしているから、大きく聞こえるのかもしれない。 いつもは適当に本を選んで、閉館時間までチラチラと越前くんを見ながら過ごすけれど、 今日は思い切って本でも借りてみようかな、なんて思っていたのに この有り様。どうやら彼の眠りは深いらしい。 トントン、と肩を叩いて越前くんを起こす。 ふあ〜、と欠伸をして目を擦り、彼は私を見た。 「んー……ん。何?」 「この本、借りたいんですけど。」 ジッと、私の差し出した本を見て、 ぶっきらぼうに本をとり、本についているバーコードを読み取る。 「生徒証明書は?」 自分の生徒証明書を差し出し、彼は受け取ると、ピッと 私の証明書についているバーコードを読み込んだ。 「あんた、本借りたことあるの、過去に2回しかないんだね。」 パソコンの画面を見たまま、唐突に越前くんは言った。 「え、あ、うん。」 「いっつもいるから大量に読んでるのかと思った。」 カチカチ、とマウスを動かす越前くん。目はパソコンを見たまま。 ---それって、私がいつも図書室に来ていることを知ってるってこと? 私の存在を知っていたってこと? そう考えると、少し、否、かなり嬉しくなった。 でも待って、悪い方向に考えたら、 ---私のこと、ストーカーみたいなんて思ってる? これは出来ればもう来ないでくれって思ってる? 心の中では一喜一憂しながらも、 越前くんが本を差し出したのでそれを受け取る。 「あんた、テニスするんだ。」 「え?しないけど。」 「じゃあなんでこんな本借りてるの。」 彼は私が借りた『テニス教本-入門編』を指差していった。 やばい。適当に、越前くんに関係ありそうな本を借りただけなのに。 テニス始める気なんてサラサラないし…えい、嘘も方便だ。 「それは---テニスを始めようかと思って。」 「ふーん。こんな教本、意味ないと思うけど。」 「や、やってみなきゃわかんないでしょ。」 「ま、やってみれば。返却日は来週の木曜日ね。 そのとき、この教本の効果教えてよ。」 彼は言った。ニヤッと笑って。絶対無理だろ、と目が言っている。 「わかった。休まないでね。プロ並になってくるんだから!」 あ、そ、と越前くんは言った。私はバイバイと手を振る。 図書室のドアを閉めタタタタと廊下を走り、階段を上る。 心の中は有頂天で、足取りはとても軽やかだった。 今なら、数学のテキストが10冊出されたって、 英語の単語テストで0点取ったって、全然平気な気がする。 ---来週も、また話せるかな。 ================ ◆拍手お礼夢[5/20〜7/15] 名前変換なくてゴメンなさい。