俺が彼女の事を知ったのは入学して半年も経たない
6月中旬のある日だった。じめじめとしたスッキリしない日のこと。
教室からは見えないテニスコートが音楽室からは、はっきり見える。
ピアノの前に立つ音楽教師を見ているとチラチラとその背後にコートの姿。
その所為でさらにテニスが恋しくなった。
ここ数日、酷い雨のせいでまともに打ち合いをしていない。
無論、寺のコートでもそれは同じ。乾先輩が言うにはあと2日もすれば晴れる
とか言っていたけれど、天気予報士じゃあるまいし、本当の事はわからない。
(あー、桃先輩とか屋内コート行かないかな。)
などと、ボーっとしながら授業を受けていたせいだ。
音楽室の机の中に筆箱を忘れた。
なくてもシャーペンくらい隣の人から借りればいいし
すごい困るわけではない。けれど、ないと不安。
仕方ない、取りに行こうかと思い立ったのは
部活の室内での筋力トレーニングが終了した午後6時過ぎだった。
じめじめとした暑さと激しいトレーニングで汗だくになった
ウェアをカバンに詰め込み、俺は音楽室を目指す。
(この学校無駄に広い…)
と疲れきった足をゆっくり動かす。
やっとの思いで着いた重たい音楽室の防音扉をあけると
そこは、いつもの授業のざわつきなんて考えられないほどに
静まり返っていた。
まっすぐ今日自分が座っていた机に歩み寄り
中を探してみるも、筆箱は見当たらなかった。
(あれ、教室だっけ…)
確かに、ここに忘れたと思っていたのだが。
もしかしたら記憶の間違いで、本当は教室の置き忘れたのかも。
踵を返し、つい3時間前まで居た教室へと向った。
*
だが、やっぱり教室に忘れた、という記憶も間違いだった。
教室どこを探しても見当たらなかった。
(どこに置いたっけ…)
ともう一度記憶を廻らす。…駄目だ、疲れて何も思い出せない。
折角早めに着替えて探しに来たのにこれで何一つ結果がないんじゃ
割に合わない。念の為、もう1度音楽室を探し
それでも何もなければ帰ろう、と思った。
再び重たい扉を開ける。
今度は自分の席ではなく右前から順々に机の中を探る。
(ない)(ない)(ない)(ない)
見つかるのはカッターで刻まれたくだらない落書きだけで
俺の筆箱はどこにもない。最後の一列を探そうとしたときだった。
「…あ。」
声が聞こえた。
振り返れば、今丁度扉を開けたらしい女子生徒と目が合った。
誰かは、わからない。
そいつは「あ!そうだ。」と言うと「ちょっと待っててもらえますか?」
と一言俺に放ち、「はい」などと言う暇も与えず、廊下に消えた。
『ちょっと待ってて』と言われてしまった俺はどうすればいいかわからず
とりあえず、残りの一列の机を探ることにした。
(ない)(ない)(ない)
と全て探し終わる。結局見つからず終い。
残念な気持ちでさっきまで女子生徒が居たドアを見つめる。
バン!と勢い良く扉が開いた。
そしてその女子生徒が手に持っていたものを見て
おれは少し目を開いた。
「…それ、俺の。」
彼女が手に持っていた筆箱を指差す。
「あ、うん。はい。」
「…ども。…なんでアンタが持ってるの。」
「掃除当番のときに見つけちゃって。」
「なんで俺のだって分かったの。」
「えーと…ごめん、筆箱の中見ちゃった。」
「ふーん。」
自分の名前がわかるようなもの、入れてたっけ、と
筆箱の中を見る。ああ、これか。
いつだったか貰った(というよりいつの間にか筆箱に入っていた)
ファンレター(いや、ラブレター)にばっちりと“越前リョーマ様”と書いてある。
「その手紙送ったの、私の友達なんだよね。
だから、あんまり本人以外には中見られたくないって思って、
直接返そうと思ってたんだ。」
「ふーん、そうゆうこと。」
俺は筆箱と彼女をまじまじと交互に見つめる。
「…アンタ名前は?」
「え、だけど。」
「何組?」
「1年4組。」
「ふーん、まあいいや。ありがとう。」
そう言って音楽室を後にする。
「いいえ。テニス頑張ってね。」と軽く手を振るを背に
「ういーっす。」と軽く返事をした。
数歩歩いて、ひとりでまじまじと自分の筆箱を見つめる。
(…サンね。)
彼女の名前と顔をしっかりと脳に刻む。
窓の外を見れば雨は止んでいた。
灰色の空の隙間からわずかに橙色の夕日が覗いている。
明日はテニスが出来るかもしれない。
妙などきどき感とわくわく感、そわそわした不思議な気持ちを抑え
俺は校舎を後にした。
雨 が 運 ぶ
雨 を 運 ぶ
(これが、君と僕との最初の出会い。)
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『元・そんな、君と僕』
全面修正しました。
出会いはいつどこにあるか
わかりません。
[09/03/06 piyo]