酸っぱくて苦い。





苦くて酸っぱい。












pH友達










早朝、いつもの目覚し時計が鳴る前に目が覚めた。

気付けば、自分は布団の中で縮こまっているじゃないか。

思い身体を起こし、ふと窓の外に目をやる。




真っ白だ。




どうやら昨夜から今朝にかけて雪が積もったらしい。道理で寒いはずだ。

窓に近付いて外を良く見ようかとベットから降りた。フローリングの床に素足で触れる。

ひんやりとして少し身震いをした。




外は一面銀色に染まっていた。道路も木も屋根も全てが銀白。

雪は未だに僅かではあるが降り注いでいる。この分だと交通に障害が出るかもしれない。

バスもJRも雪には弱い。早めに家を出たほうが身の為だ。







私は直ぐに身支度を整えると朝食を食べた。テレビをつける。

丁度占いのコーナーだった。ご飯を噛みながら占いを見入る。


(げ!最悪、12位じゃん)


当たる分けない、と思っていても最下位だとやはり悲しい物がある。

今朝の冷えと大雪といい、今の占いといい、今日の私はついていないかもしれない。



少し自虐的になりつつ、食事を済ます。

いつもより30分も早く家を出ると、そこには雪の妖精なんじゃないか?と思うほどに

色素の薄い髪と肌をした男が歩いていた。

彼は私に気付く。




「ん?じゃなか。おはようさん。」

「お、おはよ。」




そう言って振り向いたのは大好きな人。愛してる人。想い人。

同じクラスになって、しかもたまたま近所に住んでいると言う事がわかり、初めて一緒に帰ったのが

中学一年生のとき。当時は付き合うとか何も意識せず、男としても意識していなかった。

二人で映画も見に行ったし、電話で二時間喋ることもあった(私から一方的にだけど)。

仁王を始めて意識したのは中学二年生の春。クラス替えのときだった。

クラスが離れて淋しく思ったのがきっかけ。それが恋の始まり。



これが恋なんだ、と気付くと急に仁王の顔を直視できなくなった。

仁王が行き成り別人に見えて(率直に言うとかっこよくなって)、

友達に「付き合ってるの?」なんて聞かれてからは挨拶も返事もろくに出来なくなった。

仁王に気付かれたら、仁王が私の気持ちを察したら、

今の関係が崩れるかもしれない。だから素っ気無い態度しか取れない。



なのに仁王は、今日も同じように前と同じように私に接する。

≪友達≫として、接してくれる。嬉しいけれど切ない。微妙なポジション。

それでも私は仁王との接点を無くしたくない。なんとしてでも。

私は今日も、≪友達≫として仁王と接する。想いは隠して。





「雪、酷いのう。」



仁王は空を見上げると言った。



「そうだね。朝起きてビックリしちゃった。」

「俺もじゃ。寒さで起きたくらいぜよ。」

「私も。仁王マフラーしないで寒くないの?」

「あー、どこにあるかわからん。なにせ行き成りの雪だったからのう…。」




仁王は少し考えるように私のほうを見るとククッと笑った。




「が一緒にマフラーに入れてくれればいいんじゃけど。」

「なっ。」




私は赤面した。これだ、仁王の凄い所は平気でこういう恥ずかしい台詞というところ。

思わず「いいよ」なんて言いたくなるけれどそんなことをして私の心臓が持つわけない。

ましてや仁王は冗談で言っているのだから。間に受けたらいけない。




「何言ってるのよ。そういうのは彼女とやりなさい。」



冗談に冗談で返した。



「それもそうじゃな。彼女に悪いしのう。」



彼は真顔で言った。どういうこと?

頭で今の言葉を処理する前に口が勝手に動いた。






「…彼女、出来たの?」






言わなきゃ良かった、この言葉。

もっと別の言葉で返事をすれば、未来は変わったかもしれないのに。

仁王は一瞬私を見ると、道路の奥に視線を移す。

遠くを眺めるようにして言った。






「ちょっと前、後輩マネージャーに告白されての。」

「へえ。可愛い子?」

「そりゃもちろん。で、『誰とも付き合う気ない』って言ったんじゃが聞かんくて。」

「強情なんだ。その子。」

「返事はいつでもいいので、って言われて保留にしてたんじゃが。」





彼は少し間を置くとポツリと言った。





「今決めたけん。付き合うことにする。」





私の心が酷く締め付けられた。ギュッとして、苦しくなる。

『付き合わないで!』必死の心の叫びを仁王に送る。

それでも屁理屈な私は素直な態度を取れない。





「なんで…なんで付き合うの?好きじゃないんでしょ?」

「じゃけん、嫌いでもなか。」

「もっとイイ子がいるかもしれないじゃん。」

「は反対なのか?」





仁王は私の瞳を見つめた。心臓麻痺を起こしそうなくらい真直ぐに。





「反対じゃないけど。…なんで私に言うのよ。」

「は立海に入って一番最初に出来た友達じゃけん。一番に伝えようと思うての。」




「そっか…。」




あまりの絶望に言葉を亡くす。

『私も仁王のこと好きだよ!』

その言葉が言えたならどんなに心が晴れるだろうか。

否、言えたならとっくの昔に言っている。

締め付けられる心臓と溢れそうな涙を堪えて言葉を続けた。






「幸せになれよ。友達として応援してる。」






私は最高の笑顔を仁王に向けたつもりだった。

もしかしたら苦笑いだったかもしれない。それは仁王にしかわからない。

でも彼はククッといつもの様に笑うと私の頭をポンと叩いた。







「友達思いの友達を持てて幸せじゃ。」










これで、私は友達以下というポジションに落ちることは無くなった。

同時に、友達以上というポジションに昇ることも無くなった。




仁王本人に保障されたのだ。




最高で最悪の、嬉しくて切ない、便利で不便な、


酸っぱさと苦さが混合する、


有利で無意味な立場にいることを。
































:::::::::::::::::::::::::::::::::::
友達というのはもっとも残酷だと思います。
序でに、気持ちというのは素直に表さないと
伝わりません。我々はエスパーじゃないんですから。
ヒロインは今後素直に生きる様になるんじゃないでしょうか。
[08/02/03 piyo]
[08/12/18 修正]