散るときこそ、 美しく 目の前に座る女はさっきから目が泳いでいて、 これでもかって程深呼吸を繰り返しては、手に“人”の文字を書いて飲み込んでいる。 昔から、人という字を書いて飲み込めば落ち着く、というが俺は信じちゃいない。 最も、緊張するという体験はあまりしない。が言うには 「跡部は緊張を楽しんでるんだよ!いーなー!」 らしい。何を言っているかよくわからねえが、がある意味俺が羨ましいらしい。 そんな俺とは打って変わって、目の前にいるは1分間に20回は人を飲み込んでいる。 何に対して緊張しているのか、なんてのは簡単だ。 「ねえ跡部!やっぱ『好きです!』はストレート過ぎるかな?」 「いいんじゃねえの。忍足はストレートに言う女が好きだと思うぜ。」 「そっか。じゃあ問題ないかな。……あー緊張する!」 心臓すっごくバクバクしてる!とは左手で自分の心臓を抑える。 「跡部も触ってみる?」なんて俺を挑発しているようにしか考えられない発言をし、 「アホか。」と返した。 「今の『アホか』の言い方忍足君っぽい!」 「ああ、そうかよ。」 「あーまた緊張してきた!」 忍足に熱烈に恋しているコイツ()は、関西弁らしき言葉を聞くとすぐ 「忍足君みたい。」 などと発言しする。朝から晩まで、は忍足のことしか頭にないようだ。 あの胡散臭い笑顔のどこがいいんだ。と聞けば、 「あのねえ、恋は理屈じゃないのよ。跡部はわかってないなあ。」 なんて訳わかんねえ返事。本当、理解不能だ。 「もし、だけどよ。」 「ん?何?」 「返事がイエスだったら、どうするんだ。」 「そりゃ、付き合うわよ。」 「じゃあ…ノーだったら。」 「………跡部はあたしがノーの返事貰うと思う?」 「…さあ。」 曖昧にはぐらかす。 本当は知っているんだ。 が忍足に片思いをしているのと同様、忍足も違う女の子に 片思いをしている。忍足は意外と純情で、かなりの一途。 片思いの子に一生懸命アピールしていて、他の女には眼中に無い。 それは部内の人間なら全員知っていることだが、 ただのクラスメートのが知っているかどうかは定かでは無い。 分かっているのは、の振られる可能性は高いということ。 否、はっきり言う。は振られる道しかない。彼女は知っているのだろうか? 「ま、いーや!時間だから待合わせのところ行ってくる。」 明るくそう言うとは席を立った。教室のドアのところに来て立ち止まると 俺の方を振り返って、 「あたし、忍足が好きな人がいる事は知ってるから。」 にこやかに笑った。 「そうかよ。」 答えて俺は言う。 「美しく振られてくるね。」 「ああ、その時は慰めてやるよ。」 「じゃ、行って来ます。」 そう言って彼女は廊下をパタパタを駆けて行った。 開いたままのドアから聞こえる足音は徐々に遠のいていく。 腕時計を見れば、が忍足を呼び出しだ時間になっていた。 はきちんと伝えただろうか。 予想通りの結果に泣きじゃくっているだろうか。 または予想通りで呆気からんとしていだろうか。 散りに行ったに俺が出来ることは 散った花びらを集めること。 綺麗に散って来い、美しく散って来い、 そしたら俺が、優しくお前を包んでやる。 だから俺は一人静かに、を待つ。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::: いつでも恋が実るわけではないんです。 でも、いつかは誰かと実ると思います。 この跡部は強引さがないね(笑) [08/06/20 piyo]