もし、世界中が俺の敵になったとしても。
もし、自分の声が、体が、なくなったとしても。
もし、お前と一生会えなくなったとしても。
俺はお前が ――― 好きだ。
最近、気付いたことがある。
---は殆ど教室に居ねえってことだ。
別に俺が気にすることでも何でもねえかもしれねえ。
だが、クラスの奴等がアイツの顔を忘れてるんじゃねえか、
って程、アイツは教室に居ねえ気がする。
それに気付いたのは一週間前。
アイツが教室から姿を消すようになったのは二週間ほど前。
アイツが、テニス部を辞めてから一週間が経った頃だと思う。
「跡部、あたしテニス部辞めるから。ごめんね。」
あの時のアイツの顔が今でも脳に焼き付いている。つらっと平然と言ったアイツ。
でも俺は覚えている。の目が腫れていたこと。潤んでいたこと。
その宣言以来、テニス部には顔を出さなくなり、いつの間にか退部届が出され
は正式にテニス部を辞めた。誰も、納得はしていなかった。
生徒数が1000を越える氷帝では部員同士が顔をあわせることも少なく、
増してやクラスによって校舎が分かれているものだから、に会うのは同じクラスである
俺だけになった。それも、授業とHR時のみ。
◆
朝練をして、HR5分前に教室に入った俺。
その時既に殆どの生徒は登校していて、
自席で本を読んでいたり、友達同士で喋っていたり、
窓辺に固まっていたりと自由に過ごしていた。
の姿は見当たらなかった。教室のどこにも、廊下にも。
俺は重いテニスバックを床に置き、席に着く。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。立っていた生徒はまばらに席に着き始める。
それと同時に後のドアからが入ってきて、
あたかもずっと座っていたかのように席に着いた。
「跡部、なに読んでるの?英語?」「アーン?洋学だ。」
「うわ、難しそうなもん読んでるね。止めときな、青春時代は漫画だよ!ほら。」「んだそれ。」
昔の会話を思い出す。そう言って差し出された漫画、
意外とおもしろかったとに告げると
ニコッと笑って続きを貸してくれた。――― もう、過去のことなのか?
担任が教室に入ってくると今日の予定や連絡事項を伝えられ、
そして授業に入る。50分間の授業を終えると10分間の休憩。
一時間目は英語だった。英語なんて余裕で話せる俺は授業を聞く必要もない。
だからずっと、を見ていた。アイツは俺の視線に気付くどころか
黒板とノートに忙しく交互に視線をに向け、
必死にシャープペンをを動かしていた。
10分休みになった。俺が鞄に教科書をしまっていたうちには教室から消えていた。
テレポートでもしたんじゃねえかって程、あっと言う間の出来事。
そのあとチャイムとともに席に戻って休み時間の度にどこかに行く。
今日も昨日も一昨日もその前も、同じ行動パターンだ。
そして放課後も「さようなら」という号令とともに帰っていく。
その後の行動はわからない。
部活に行かなければならない俺は、に一言も話し掛けることも出来ず、
ただ見ているだけで一日が終わってしまう。
だが今日は違う。今日は休養日だ。
「さようなら」の号令と同時に俺は鞄を手に取り、玄関へ向う。
俺の前には。距離にして約10M。は気付いてない。
*
校門を出て、の後をそっとつけた俺。
その結果、今俺は学校から少しはなれた喫茶店の前にいる。
後をつけ、歩くこと15分だった。
は少し古そうな喫茶店に平然と入っていった。常連客なのか?
少し迷った結果、俺もそのドアを押す。カランコロンと鐘が鳴った。
「いらっしゃいま・・・・・・あ、跡部?!」
「よう、。」
俺を迎えてくれたのはカフェエプロンを着けた。
まさかが店員になっているとは思ってもいなかった俺は少し驚く。
も驚いたのか目をぱちくりとさせていた。
「と、とりあえず座って。」
に案内され、俺はカウンター席の一番奥へと着く。とりあえず、珈琲を一つ注文した。
◇◇
「行き成り跡部が来て吃驚しちゃったよ。何か用あるの?」
は「どうぞ」と俺の前に持って来た珈琲を置き、自分も向かいの席に着いた。
俺らは今向かい合っているわけだ。の奴、チャッカリ自分の珈琲も持ってきてやがる。
「あーん?の後を着いてきただけだ。」
「何ソレ、ストーカーじゃん。」
「俺はストーカーしても許させるんだよ。」
「相変わらずの俺様振りだね。」
はクスッと笑った。あー、いつ振りだろうコイツの笑った顔を見たのは。
否、コイツの顔をまともに見たこと自体が久しぶりだ。
は珈琲を一口飲むと話を続けた。
「ストーカーしたからには何か話があるんじゃないの?」
「あるぜ。」
「何?」
「お前、学校が嫌いか?」
突然の俺の台詞にはまた、目を点にさせる。質問の意味が理解できないってことだろうか。
俺の聞き方もまずいかったか。俺は珈琲を一口飲み、一つ深呼吸をした。
「いいか、黙って聞けよ。」
は下を向いたまま「うん」と言った。
「俺は最近、お前と学校で話をしねえ。お前と顔も会わせてねえ。
そもそも、俺はお前がテニス部を辞めてことに納得をしてねえ。
お前は---はテニス部を辞めてから様子がおかしい。
何か、あったのか?!何故、俺に何も言わない?!」
「・・・・・・。」
「俺は、お前と話がしたいんだよ!学校で。前のように。
だから、部活は一番親身になれる場所だった!なのに何んだ?行き成り部活は辞めちまう!
突然すぎて、思考が追いつかなくて、でも学校では平然をよそおって。
をどうにかしてテニス部に戻そうと思ってタイミングを計ったがどこにもねえ。
お前は授業以外はすぐ消えちまうし、誰とも話しもしねえ、誰とも目もあわせねえ!
前は、俺とは話していただろ!?漫画貸してくれたじゃねえか!
俺は、俺は単純に前のようにと話して、笑っていたいんだよ!
と一緒に居られる時間が一番好きだったのに・・・・」
俺の目からしょっぱい何かが零れる。俺は拭うなんてことはせず、
そのまま溢れる泪を一滴二滴とテーブルに落とす。
が、俺の目元の泪をすくった。ポツリと話し出す。
「学校でね、テニス部レギュラーのマネージャーになってからね、
虐られたんだ。漫画みたいな酷い虐めで、本当にこんなことってあるんだ、って思った。
でも------相談は出来なかった。だって、相談した所でどうなる?!更に陰で虐められるだけよ?!
だから、あたしが辞めた方が絶対にいいの!誰にも迷惑をかけない!!
跡部の存在も、テニス部の存在も、全部消して、無くして。
空気のような存在になりたかった!!」
店内が静まる。もともと客が入っていなかったこの店には現在、俺としか居ない。
店長も今は不在のよう。まったくの二人きりだといえようか。
「じゃあ、お前は空気だ。」
「・・・・・・・・・。」
「空気ほど大事なものはねえ。空気が無ければ俺は死んでしまう。」
「・・・・・・・・・。」
「生憎、俺はまだ死にたくねえ。だから、俺の空気になってくれ。」
「・・・・・どういうことよ。」
「が好きだ。」
の目が、緩む。真っ赤な目に泪をいっぱい浮かべて小さく「馬鹿跡部」と言った。
「・・・テニス部にはもう戻れない。でも、
跡部といたい。
ずっと一緒にいたい。
死ぬまで一緒にいたい!」
「十分な返事だ。」
俺はの顔をゆっくり引き寄せ口付けをする。深く、深く。
好きだ。
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新しい道が拓かれた。
進むか進まないかは自分次第。
険しくとも、恐ろしくとも、
アナタと居れば怖くない。そんな二人。
[07/08/27 piyo]
[08/12/26 修正]