僕は君が嫌いだ。 「邪魔、よけて。」 丸井はシッシと、まるで犬を払うかのように私を手で振り払う。 私は、「は?」と頭に疑問符を浮かべた。 なにせ私は、ただ自分の席で友人と共に雑誌を読んでいただけである。 確かに私の隣の席は丸井であって、彼はついさっきまで クラスの友人の机でトランプをして盛り上がっていた。 どうやらそのトランプ大会は終了したようで丸井は自分の席に戻ってきたらしい。 自分の席に座るには私の椅子の後ろの僅かなスペースを通らねばならない。 丸井の腹立たしい言葉使いに多少イラッとくるものの、 椅子を自分に寄せ、丸井が通れる分のスペースを作り出す。 彼はありがとうの一言も言わないで、つかつかとそこを通ると 自分の椅子に座り机に突っ伏して寝始めた。 (成るほど、眠くて機嫌が悪いのか) などと、一人で納得してみる。眠いから愚図るなんて。 全く、この赤髪は赤ちゃんじゃあるまいし、などとも思ってみる。 「、次のページめくっていい?」 友人に声をかけられ、「あ、うん。いいよ」と返す。 丸井の態度など忘れ、私と友人は食い入るように雑誌の特集を見ていた。 特集内容のページには目の保養と言ってもいいほどのかっこいい男の子の写真。 そう、「イケメン特集」だ。イケメン若手俳優から街角で見つけた男の子まで それはもう、彼氏のいない私にとって素晴らしいものだった。 決して男に飢えているわけでは無い。彼らがかっこいいのだ。 「かっこいい人が世の中には溢れてるんだね、」 「そうだね。でもうちの学校にはかっこいいひとはいっぱいいるじゃない?」 「なに言ってるの。レベルが違うわよ。レベルが」 「えー、私はこの写真の男の子より仁王君とか幸村君の方がかっこいいと思う」 「あー、確かにそうかも。でもこの俳優さんにはかなわないよ。 少なくとも丸井よりは数倍かっこいい」 そう言ってチラッと隣の席の彼をみる。 さっきのお返しに嫌味を言ってみたが、どうやら彼は熟睡しているらしい。 私の言葉に一切の反応を示さなかった。 「めくるよー」 の言葉に私は「うん」とだけ返事をした。 * 「めくるよー」 の声がかすかに耳に響いた。 かすかといっても、頭の中では簡単に理解し言葉の意味が分かる。 もちろん、さっきのの言葉も十分聞こえた。 (反応を示さなくても、寝たふりくらいは出来るんだよ、バーカ) と、心の中でにテレパシーを送ってみる。 やはり気付かない。当り前だよな。 彼女らはどうやら雑誌に夢中なようで、キャッキャと黄色い声が聞こえる。 この人は眼鏡が似合っているだの、ネクタイの緩さ具合が丁度いいだの。 男の俺から見れば「馬鹿じゃねえの?」と言いたくなるほど 細かいとこをついては誉めたり貶(けな)したりしている。 まあ、俺も見た目を気にしないわけでは無いので、それなりに たちの会話を聞く。 今日は「腰パンが全ていいわけでは無い」という情報を得た。 少なくともとの好みの話の範囲だが。 それにしても、 俺は納得がいかない。が他の男の話をすることについて、だ。 さっきの会話から、仁王や幸村をかっこいいと認めてる時点で もう腹が立つ。腸(はらわた)が煮えくり返りそうだ。 一方で、俺はの言葉から「かっこいい」とか「素敵」とか そういった類の誉め言葉を聞いたことがない。 は知らないとは思う。 俺はおまえの好みのタイプになるよう、密に努力していることを。 「身長は170は欲しいよね」 とか言うから一日一本の牛乳を飲んでいるし、 「腹筋割れている人素敵」 とか言うから一日300回も腹筋している。 だからこの努力、本当報われてほしいわけ。 そう思ってたら、の興奮した声。 「この人月九のドラマに出てる俳優さんだよね。 すごいかっこいい!あ!特技テニスだって!凄くない? しかも県大会準優勝したことあるって書いてあるよ、!」 俺は全国大会にもいってるんですけど? 何かがプツンと静かに切れた。 * 「しかも県大会準優勝したことあるって書いてあるよ、!」 かっこいいなあ、と付け足して丸井を再び見る。 また反応ないんだろうなあ、と思っていると彼はゆっくり動きだし、 机に突っ伏したまま私をジッと睨んだ。瞳が怒っている、気がする。 「あんさ」 低い声で言った。 「俺、本当おまえが嫌いだ」 「そこに映ってる性格もわからない男のどこがいいわけ?」 「わかんねえ」 彼は再び眠りの体制に入った。私は再び「「は?」と疑問符を浮かべる。 唐突だ。いつでも丸井の言葉は唐突過ぎる。 * 「わかんねえ」 なあ、この言葉に含まれてる意味、おまえは感じ取ってくれただろうか。 わかんないから嫌いなんじゃない。 わかんないから、理解したい。知りたい。 雑誌上の知らない他人に嫉妬している俺は馬鹿だけど、 俺の心に気付いてくれない見向きもしてくれないはもっと馬鹿だ。 だから、俺はお前が嫌いだ。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::: 素直になれないのが 中学生なんです。 嫌い嫌いも好きのうち。 [09/01/05 piyo]