今宵夢にて



“今宵夢にて会いましょう。”




真っ白な紙に、便箋ともいえぬ、ただの紙に黒のボールペンでそれは書かれていた。

忍足はそれを逆さにしたり、蛍光灯にすかしてみたりしたが、

書いているのはそれのみ。A4の紙に真ん中に堂々と書かれた整った文字は

どこかに見覚えがあった。だが、筆跡で誰が書いたかわかるほど

忍足は人の文字を見ていない。当り前である。




椅子に座りなおし、もう一度手紙を透かして見る。

手紙に変化はなかった。





「ふーむ。なんのトリックもあらへん。」

「なにが?」





一言呟いた忍足には話し掛けた。

同時に忍足の持っている手紙を覗き込む。




「『今宵夢で会いましょう』…?誰から貰ったの。この手紙。」

「さあ。落ちてた。」

「落ちてたって…どこに。」

「中央階段二階の踊り場。ちょっと謎めいてるやろ?」

「謎めいてるというかなんていうか。勝手に持ってきて良かったの?」

「宛先も書いてへん。差出人もわからん。せやから問題はないやろ。」




「この字に見覚えあらへん?」と言いながら忍足はに手紙を見せた。

は忍足から手紙を受け取るとジッとその文字を見つめた。




ボールペンで書いてあるにも拘らず、整った文字である。

読みやすい、美しい、見やすい。

三拍子揃った文字は一目で“誰の字”と分かるかもしれないが、

どこか、特徴に書けるものがある。いや、単に普段意識していないだけかもしれない。




「うーん。どこか見覚えあるようなそうでないような。」

「そやろ。俺も同じ感じなんや。」

「でもそこまで気にする必要もなくない?」

「そうやけど。」





忍足は言葉を詰まらせた。そして唇をギュッと噛むと「うーん」と唸り始めた。

手紙の文字を見ては目を瞑り、ゆっくりと“今宵夢にて会いましょう”と読み上げる。

まるで合言葉を言うようにゆっくりと読んだが特に変化はない。

はやけに手紙を気にする忍足をジッと見ていた。

途端、忍足が言葉を続ける。





「似てるんよ。」

「字が?」

「ああ。昔貰ったファンレターの字に。」

「じゃあその子じゃないの?」

「その手紙も名無しやったねん。」

「ふーん。」

「かわええ子やといいなあ。」




忍足はそう呟くと丁寧にその手紙ともいえぬ紙を折り畳んだ。

どこか幸せそうな、夢を見ているようなその顔にはムッとしつつ、



「夢で逢えるんじゃない?」



と、冗談交じりに言った。忍足はの顔を見て微笑すると言った。



「そやな、楽しみや。もしかしたら、が出てくるかもしれへん。」
 
「冗談じゃないわ。」

「そこまで嫌がらんでもええやろ。」



忍足は小さく折り畳んだ手紙を筆箱の中に入れた。







夢で逢えたかは誰も知らない。