決戦は金曜日 「また失敗してしまった・・・」 は項垂れる様にその場にしゃがみ込んだ。手には四つ折にしたメモ帳。 窓の外をチラチラと見ては、「はあ」と何度も溜息を吐く。立ち上がって窓ガラスにおでこをくっ付けた。 ひんやりとして冷たい。時折り出るため息が窓ガラスに白い跡をつけては消えた。 「まだ渡してなかったの?」 は腕を組み、と同じく外を見た。雪こそ降ってはいないものの、 外は冷えているらしい。外を歩く生徒達は寒さの所為かマフラーに顔を埋めている。 は外から視線を外し、を見た。 は手紙を開き再び、「はあ」と溜息を吐いた。 「なんでこう私ってタイミングが悪いんだろう。」 「タイミングなら幾らでもあったでしょ、要領が悪いのよ。」 「じゃあ言い換える。なんでこんなに要領が悪いんだろう。」 「臆病者だからじゃない?」 はを縋(すが)るような目つきで見つめた。は少し目を細め、 突き放すかのごとくから目を逸らす。 「・・・どうしよう、。」 「頑張るしかないでしょ。」 「頑張るって言ってもー・・・」 は再び溜息を吐く。同時に近くにあった机の椅子を引く。 そこに腰掛けると顔を机に突っ伏した。 もの机のすぐ近くに座ると呆れ混じりに口を開く。 「だいたい、今日でそのことを言い出して何ヶ月目? ぐずぐずしてたらとられちゃうわよ?!」 「そんなのわかってるよお・・。」 そうなのである。にはあり重要は使命があった。 いや、本人にとっては大事であるが第三者にとってはそれほど大事なことではない。 <日吉にメールアドレスを聞く> そのことだけがの頭の中を支配していた。 が言うように、は日吉に恋してもう1年。メールアドレスを聞こうと思ってもう半年。 幾らなんでも初心(うぶ)すぎる恋である。 ◆ 「テニス部待ってみたら?6時で部活は終わる筈だよ。」 「でもこれだけの為に待ってたらストーカーみたいじゃない…?」 「・・・あんたって子は・・・」 が言いかけた時、丁度教室のドアが開いた。 二人は少し驚きビクッと肩を震わせると、ドアに視線を移す。 「あれ、さんにさん。まだ残ってたんだ。」 そこに入ってきたのは長身の銀髪---鳳だった。 頬は火照っていて、額には汗が流れている。どうやら走り込みをしたらしい。 日吉に今の話題を聞かれていたかと思っていたは少し安堵した。 が口を開く。 「鳳、部活終わったの?まだ5時半だよ。」 「あ、うん。今日は監督が出張だから早めに終わったんだ。」 「そうなんだ・・・・今日日吉来てた?」 「日吉?えーっと、居たよ。もうすぐ来るんじゃないかな。」 「そう、ありがとう!」 は鳳にお礼を言い、にニヤッと微笑むとの手を引いた。 慌てたが言う。 「ちょっ、どこいくの!?」 「決まってるでしょ。アイツのとこよ!」 「で、でも!」 「でもじゃない!決戦は今日!今日しかないのよ!」 は行動的なを羨ましく思った。しかし行き成り過ぎないか? だが、には躊躇している時間は無い。立ち上がり廊下に出ることにした。 ドアまでに手を引かれ、廊下へ飛び出す。 「・・っつ!」 「うわあ!」 「きゃ!」 危うく正面衝突。廊下に出た途端、とは誰かにぶつかりそうになった。 刹那、はすぐに衝突しそうになった相手を見た。---日吉だ! の心拍数は一気に急上昇する。 「ご、ごめん日吉君。」 が日吉に謝る。日吉はぶっきらぼうに言い返した。 「・・・気をつけろ。」 日吉がドアに手をかける。教室に入ってしまう! 唐突でも良い、今渡さなければまだ機会を失ってしまう。 はの背中を押すと「日吉!」と叫んだ。 「・・・今度はか?なんだ。俺は着替えたいんだが。」 「あんね、が・・・」 チラッと、はを見る。は慌てて、しどろもどろに口を開いた。 「あ、あのね!メールアドレス教えて欲しいの!」 「・・・なんだ、そんなことか。態々(わざわざ)呼び止めるな。」 「・・・じゃあいいの?!メールしても?」 「別に構わないが。」 「じゃ、じゃあこれ、私のアドレス!暇があったら送って!」 さっきから手にしていた四つ折のメモ帳を日吉に渡す。 日吉はそれを受け取ると無造作にポケットに仕舞った。 「暇なときで、いいから!」 「・・ったく、うるさい奴だな。わかってる。」 日吉は教室に入っていった。鳳との話し声が聞こえる。 どうやら話題は冬休みの合宿についてたらしい。 はそれを見届けると顔に満面の笑みを作り、に抱きついた。 「!やったあ・・!」 その夜、は満面の笑みで日吉とのメールを楽しんだ。 もうすぐ冬の、金曜日のこと。