御見舞



「亮も風邪ひくんだね。」



クスクスとは笑いながら林檎の皮を器用に剥く。

はいどうぞ、と差し出されたそれを受け取り、口に入れた。

シャリッとみずみずしい音を立てる。



「俺だって風邪引くの小1以来だぜ?」

「元気だけが亮の取柄だったもんね。」



うるせ、そう言ってが剥いた林檎をもう一つ手にとる。

確かに風邪を引いたのは久しぶりだった。


最後にひいたのは小学校1年生のときだった。

しかもそれは楽しみにしていた初めての遠足の日で、今でもよく覚えている。

300円チョッキリ駄菓子を揃えて、準備万端で迎えた前日。

その時は何ともなくて、寧ろ楽しみ過ぎて夜も眠れなかった。

朝起きてみれば身体中が重たくてダルい。そして熱い。

ぼーっとリビングに行けば母親がすぐさま異変に気付いて、俺は布団に戻された。

そっからは、遠足に行けない悲しさと悔しさで泣いて泣いて愚図って。

思いっきり泣いたあとはグッスリ寝て、皆か返ってくるであろう午後3時辺りには

熱も下がってピンピンしていた。



きっと小さい子供には良くあることなんだろう。

良くある話だ。学芸会や運動会など、イベントがある日に限って

熱が出て休んでしまうアレだ。



「あたし、亮が遠足に来なかった日、今でも覚えてるよ。」

「俺も覚えてる。俺は布団の中ですげー暇してた。」

「あはは。あたしは逆に亮が来なくて淋しかったなあ。

 それで遠足から帰ってきたら直ぐに亮の家行ったっけ。」

「で、今みたいに寝てた俺のとこきて熱下がったから、

 って少し一緒に遊んで、次の日今度はが休んだよな。」

「そうだったね。亮の部屋にウイルスがまだいたのかも。」



は2つ目の林檎を手にとって口に入れた。

ついでに俺ももう一つ拝借した。これがスッキリしていて美味い。

むしゃむしゃと食べる俺を見てか、は「もう一つ剥く?」と

問い掛けたが、「いや、いい。」と断った。

あまり食べ過ぎても飽きてしまう。程々が一番いい。



「てかよ。」

「んー?」



手持ち無沙汰なのか、落ち着かないのか、は立ち上がり

俺の部屋の本棚を物色し始めた。表紙を見て中をパラパラと確認しては

戻す、という作業を繰り返している。



「お前、ここにいたらまた風邪うつるんじゃねーの?」

「うつんないわよ。あたし亮と違って免疫力あるし。」

「腹立つ女だな、ったく。

 てかさっきから何してんだよ。本見たり捲ったり。」

「ん?エロ本探し。」

「ね、ねーよ!そんなモン!何で探してんだよ!」

「御見舞行くって言ったら、がっくんと忍足から

 『探せ』っていう命令うけてね。」

「あーそうかよ。残念ながらそう言う類の本はねーよ。」

「そうなの?なら、よかった。」



ふふっ、と笑ってさっきまで座っていた席に戻る。

あ、そうだ!と言ってスクールバックの中から茶色い封筒を取り出す。

俺が口を開く。



「なんだ、それ。」

「これ、先生とか跡部とかから預かったプリント。

 明後日提出らしいから持ってきた。はい。」

「サンキュ。」



がふと時計を見る。あ!と再び呟くとカーディガンを羽織い、

スクールバックを肩に掛けた。



「そろそろお暇(いとま)するね!じゃあ、明日学校でね!」



バイバイと手を振るに、俺は「おう」とだけ返事をした。












バタン、と戸が閉まった。自分の部屋が一気に静かになった気がする。

俺はから受け取った茶封筒を開けた。

プリントが数枚出てきた。2枚は保護者宛ての知らせ、

1枚は跡部からテニス部レギュラーへの知らせだった。



もうないだろうか、と封筒を逆さにする。

パサッと白い何かが落ちた。



「手紙?」



メモ帳をただ4つ折りにしただけのそれを開く。

そこにかかれた文字を見て、再び熱が出たんじゃないか、

というくらい嬉しく、顔が熱くなった。





『亮がいないと淋しいんだから。早く治してよね?

 なんなら前みたいにあたしに移してもいいけどネ。

 。』





起き上がり、大切な彼女から貰った手紙を机の中に閉まった。

たまには風邪も悪くないかもしれない。