ラブミー! 「つまらない。」 その一言を聞き、俺の右手は動きを止めた。 小さく呟いた筈の彼女の言葉で、二人きりの部室の静寂は あっと言う間に取り除かれたように感じる。 「…どうかしたか、。」 一瞬間ができたのは、の所為に他ならない。 部誌から目線を彼女に移せば、それはもう酷く可愛くない顔で 俺のことを睨んでいる。一体俺が何をしただろうか。 疑問に思い、彼女に問えば返ってきた返事はたった一言。 「暇。」 ぶすっと頬と膨らまし、口をへの字にし俺に威嚇するかのように 睨む姿はまさに不細工そのものだが、そんな姿すら愛しく感じるのは 大好きで大切な恋人だからだろう。 俺はペンを置き、目の前に座るの頭を撫でる。 すると彼女はすこし照れたように俯き、わずかに口角を上げる。 どうやらそこまで機嫌は悪くないらしい。 俺はフッと笑い、右手を再びシャープペンに戻した。 彼女が再び口を開く。 「さっきから熱心に何書いてるのさ。」 「あーん?部誌だ。」 「もう30分も書いてるじゃん。」 「練習メニューだとかレギュラーの今日の様子だとか それからこれからの練習試合のスケジュール調整とかも しなきゃなんねんだよ。」 「あたし暇。つまんない。お腹空いた。」 「…ロッカーの中。」 「ほんと?やった!」とキラキラと目を輝かせながら 椅子から飛び上がり俺のロッカーの戸を開ける。 そこには部活後に食べようと思っていた栄養補助食品や 部員(主にジローや長太郎)から貰ったお菓子が入っている。 「景吾もポッキー食べるんだ。」 「ジローに貰った。」 「食べていい?」 「駄目といってもは食うだろ。」 「まあね。」 ベリベリと箱を開けてイチゴ味のそれを口にする。 ポキッといい音がした。「俺も」といえばがそれを口に 一本つっこむ。俺は相変わらず、スケジュール調整に忙しい。 「景吾、飲み物貰っていい?」 「ああ。鞄の中だ。」 「知ってるー。」 がさごそと俺のテニスバックを漁る。 彼女はごくごくとドリンクを飲み、「ぷはあ。」と爺くさい声を出すと 俺の鞄の中をまじまじと見つめ始めた。 俺はというと、しなければならない自分の作業を放り出し、 ロッカーや鞄を漁るを見つめる始末。 全く、といると仕事が捗らない。 「景吾ー。」 ドリンクを鞄に戻し、ロッカーの前にしゃがんだまま (つまりは俺に背中を向けたままの状態で、)俺を大声で呼ぶ。 「また手紙貰ったの?ひーふーみー…うわ、9通。」 ああ、さっき樺地から受け取ったやつか。 と一人で納得し、「まあな。」とに返事する。 はこれも、これも手紙だと、ひょいひょいと俺の鞄の中から 取り出してはじっと観察するように眺めている。 「今日はまだ少ない方だぜ?」 「相変わらずモテるね。 あ、この手紙、2年の中で超可愛いって有名の子からだ。」 「興味ねえ。」 「こっちは隣のクラスの子じゃん、あの秀才で有名な。」 「だから興味ねえ。」 「ふーん。…景吾の彼女は私なのに。」 ポツリとが呟いた。消えそうな声はなぜだか俺の脳に響いて そしてこだます。なんだ、可愛いこというじゃねえか。 俺は右手のボールペンを置き、手紙を見つめるの頭を コツンとたたいた。「バーカ」と一言添えてやった。 「景吾、痛い。」 「…バーカ。」 「そんなに何度も言わないでよ!」 「安心しろ、俺はずっとお前の彼氏だ。」 「う…」と言葉を詰まらせ、頬を赤らめる。 手紙ごときに嫉妬している彼女を愛しく思うのは惚れた弱みか。 部室に誰もいないのを良いことに、の顎に手を添える。 「一生愛し続けてやるよ。 そのかわり、お前も俺を愛してくれよな?」 愛してる、愛してくれと、意味を込めて フレンチキスを落とした。