貴女にお手紙


「冬枯れの季節を迎えました。短い冬休み、いがかお過ごしですか。

 私は膨大な量の宿題にめげずに取り組んでいます。

 もう少しで大晦日そしてお正月ですね。現在、我が家は大掃除で大忙しです。

 ところで、年が明けたら落ち着きましたら、一緒に初詣に行きませんか?

 電話でも手紙でも構いません。あなたからのお返事を待っています。








 ねえ。コレ誰からの手紙?」






は大掃除の途中、本に挟んであった薄茶色の封筒を開けると、

便箋に書かれた文字を読んだ。

達筆で上品なしかし少しだけ乱雑な文字がそこには並んでいた。

女性の文字か男性の文字か。判別がつき難い。






台所で食器を拭いていた柳生は、赤いマグカップを戸棚に戻し

に寄った。手には布巾を持ったままである。






「どれです?」

「これ。」






ぶっきらぼうに、明らかに不機嫌には茶封筒を柳生に渡す。

柳生はそれを微笑みながら受け取るとジッと封筒を見た。

ありきたりの極一般的な封筒。裏を見るが差出人名も宛名も書いていない。

中に入っていたがさっき読んだ手紙を読む。

柳生にとってそれは見覚えのある、というより寧ろ、思い出のものであった。





「ああこれは…。」

「女から?」





柳生が話し出した途端、が遮った。

ずずいと身を乗り出し、柳生に顔を近づける。

じっと柳生の目を見る。彼が嘘をつくのではないかと不安だからだ。




すると柳生は再び微笑し、の頭を撫でた。




「残念ながら女性からではないんです。」

「じゃあ誰?まさか男?もしかして仁王君とか!?」

「まさか、冗談はよしなさい。これは ――――― 私からです。」





「どういうこと?」





は目を点にして、柳生を見た。それは先ほどとは打って変わって、マヌケな顔とも言えた。

柳生は一旦台所に戻り布巾を食器の上にかけると、再びのいるソファの横に座った。





「これは、私が書いたものです。」





懐かしそうに柳生が言うと、は柳生が持っていた封筒を奪い、

文字をじっと眺めた。視線で穴が空くのではないかというほどジッとだ。

そして視線を手紙から柳生に移すとは口を開いた。





「これ、ヒロシの字じゃないよね?」

「いえ、私の字です。」

「今と全然違う――――あー…“な”とか“ま”の書き方が似てるかも。」

「だから言ったでしょう?」

「でも何で?誰宛?」

「貴女宛ですよ。に送ろうと書いたんです。」

「出し忘れ…ってこと?」

「まあ、そうですね。それよりも勇気がなかったといった方が正しいですが。」






柳生は話を続けた。

それを要約するとこうだった。


中学生の頃からと仲がよく、の事が好きだった柳生は

少しでも自分の気持ちを知って欲しいということで手紙を書いた。だが、

直接渡すにも勇気がなく、郵送するにも住所を知らず、ましてや聞くことなど出来ず、

そのまま本に挟めたまま思いも手紙も封印した、ということだった。



それは、今からもう5年以上前の話になる。






「中学生の時の手紙…かあ。なんで渡してくれなかったのよ。」

「勇気がなかったんです。当時は丸井君や仁王君とも仲が良かったでしょう?」

「でも、あたしもその時からヒロシのこと好きだったんだよ。知ってた?」

「え?そうだったんですか?」

「そうだったの。ねえ!ヒロシ!」





が思いついたように提案した。




「あたし、この手紙の返事書きたい。」

「え、どういうことです。」

「5年前に戻ったつもりでさ。あたしの家にその手紙送って!

 ほら、この手紙の季節も現在の季節も12月の末で丁度いいでしょ。」

「全く、という人は突拍子もないことを考えますね。」

「約束ね!」





は小指を差し出す。柳生はそれに応じて自分の小指も差し出した。

小指と小指が絡まる。互いにニコリと笑うと柳生は立ち上がった。




「では、切手を買ってこなければいけませんね。大掃除も途中です。

 まず掃除を終わらせましょう。、手伝って下さいね。」

「言われなくても手伝ってるわよ。ヒロシの家が終わったらあたしの家に来てね。」

「承知しました。さあ、再開しましょう。」





柳生が立ち上がり、の手を取る。は手を引かれ勢いで立ち上がった。





外では僅かに雪が振っていた。