黄金夜空 ブブブ、と自分の携帯が震えた。無機質なバイブ音が部屋に響き、5秒後に止まる。 俺は携帯を開いて液晶画面を見ると、そこにはメールが一通。件名は立った一言、『待ってる』 現在、23時11分。 ベランダの鍵を開け、外に出る。日は既に落ち、月がその存在を主張していた。 星は見えないが、代わりに沢山の電灯や車のライトが光を放っている。 「俺、さっきまで風呂入ってたんだけど。」 俺は隣のベランダに向って言う。俺の家はマンションであり、 隣とは仕切り一枚で区切られていて、進入は不可能なものの声は良く聞こえる。 「だからー?」 返事が返ってくる。送信主、の声。隣人であり、クラスメイトでもある。 俺は見えないに向って言った。 「俺、湯冷めしそう。」 「地球温暖化が進んでるから大丈夫。」 「よくないだろ。まあ髪はもう乾いてるけど。」 「そ。ねえ聞いて。」 「ねえ聞いて。」これはの口癖かもしれない。毎日聞いている。 ベランダに出て、二人で仕切り越しに話をする。テレビの事だったり、授業の事だったり、 夕飯のメニューについてだったり。兎に角様々。 からのメールがトーク開始の合図な訳で、俺らは毎日こうしてトークをしている。 俺は「何?」と返す。 「今日ね、初めてラブレターらしきものを貰っちゃった。」 「・・・が?」 「あたし以外に誰が居るのよ。」 「それ多分間違いだよ。同姓同名の他人。」 「同姓同名の他人なんかじゃありません。完璧あたし宛。」 「・・・なんて書いてあったの?誰から?」 興味津々、なんて態度は見せないよう、あくまで冷静に平然と聞く。 数秒間の無言のあとが答えた。 「なんかねー、『元気で明るいサンが好きです、学校祭で頑張っている姿を見て さらに惚れました、付き合ってくれー』・・・って。」 「なんか在り来たりだな。」 「寧ろベタよね。学校祭なんてあたし以外も頑張ってるのに。」 「そうだな。で、誰から?」 「佐々井君。バドミントン部の副部長の。」 「佐々井・・・」 思考をめぐらす。だがどうしても佐々井という人物の顔が浮かばない。 それも仕方がない、氷帝学園には一学年だけでも500人を越す生徒が居るのだ。 「顔が思いつかないや。返事はどうするの?」 「それがどうしようかと思って。それで萩に意見を聞きに来た。」 「俺の意見を聞いてどうするんだよ。」 そりゃ勿論、には付き合ってほしくない。それだったら俺と付き合ってほしい。 だが、心で思っている言葉を口にすることは出来ない。告白なんてとても。 この今の隣人とクラスメートの関係を壊したくないのだ。毎日二人で話すだけでいい。 「萩はどうなのかなーって思って。」 「付き合わないほうが良い」と言いたい。言えない。 「の好きなようにしたらいいと思う。佐々井の事嫌いじゃないんだろ。」 「うん、寧ろ好きの分類に入るけど。」 「じゃあ付き合ってみたら?もし合わないようなら別れれば良い。」 「それが萩の意見?」 「・・・まあそんなもんかな。」 「・・・・・・・・・参考にする。あたしお風呂入ってくるわ。」 ガラガラ、とベランダの窓ガラスを開ける音が聞こえた。 は部屋に入ったようで、隣からは何も聞こえない。静寂が俺を包む。 どうしてあんなことを言ったのだろう。どうして止めなかったんだろう。 後悔が自分を襲う。心と口は反している。 否、まさか付き合う事は無いだろう、とタカを括っていたんだ。 まさか、付き合ったりなどしないだろう。まさか・・・・・。 その『まさか』を信じて、俺は空を見た。 電灯やライトが眩しい夜の街が、空を黄金に照らしていた。 次の日から、とベランダで話すことはなくなった。 彼女には、もう彼が居るのだから。