花手紙



「俺、先に行くぞー。」

「え、待って!あと3分!」

「いっぷん〜にふん〜さんぷん〜。はい、時間切れ!」

「そんな理不尽なっ。」




中学三年生の春。受験生となったとブン太はいつもと変わらない朝を過ごしていた。

ただ、少し違うのはが寝坊したことと家の朝食がトーストということ。

家でトーストが出ることは、母親が寝坊をしたことを暗示する。

の母親は髪をひとつに結いながら、玄関にいるブン太に駆けて来た。




「ごめんね。ブン太くん。私もも寝坊しちゃって。パパは出張中だし・・・・。

 ソファで座って待ってて。今、降りてくるはずだから。」

「わかりました。ありがとうございまーす。」




ブン太は靴を脱ぎ、慣れた様に家のソファに座った。

そしてテーブルの上に置いてあるリモコンを持ち、テレビをつけた。

芸能ニュースをやっているが、どれもブン太の興味の対象ではなかった。

座ったと同時にドタバタとが階段から降りてきた。




「やばーー寝坊した!お母さんごはんは!?」

「トースト焼いたわよ。あとコンポタージュも。」

「マーガリンつけといて!私顔洗ってくるから!」

「馬鹿。寝坊すんじゃねえよ。」

「うっさい馬鹿ブン太。今日のワンコでも見て待ってなさい。」





  ■  ■





「あー。舌と喉がまだヒリヒリする。」

「スープは一気飲みするもんじゃねえよ。」

「ブン太が急かすから・・・。」



ベエっと舌を出し、春のまだ肌寒い空気で舌を冷やす。

そんなことをしても冷えるわけは無いが、あくまで気休めである。




「だいたいクラス分け表が早く見たいから早く行こうって言い出したのは

 どこのどいつだよ。」

「私です。だから待たせて御免。」




結局ブン太は早起きしたにも拘らず、登校時間はいつもと同じ。

周りにはやブン太と同じ立海生が楽しげに歩いている。

ブン太はには話を続けた。




「俺ら、同じクラスになるかな。」

「どうだろう、小学校のときはずっと同じだったけどね。あ!」

「な。なんした?」




突然が「あ!」と叫んだ先、ブン太が視線を移すとそこには満開の桜。

風景にあまりに溶け込みすぎて気がつかなかったが、それはとても美しかった。




「桜、きれいだね。」

「ああ、だな。心癒される。」




とブン太は数秒桜に見とれていたが、はすぐにまた歩き出した。

ブン太もそれに続く。そして学校に着く。



いつもの生活が、また始まった。










 ◆ ◆ ◆











あれから凡そ一年が経った。何も変わらない。いつもと同じ。

ただ違うのは、がブン太の隣にいないということ。

それは突然の転校だった。



転校以来、ブン太はとはたまにメールや電話でのやり取りをしていた。

だが、今日は珍しいことが。





ポストに一通、白い封筒の手紙が入っていた。

ブン太は差出人の名前をみるとフッと笑い、丁寧に封を開けた。










 丸井ブン太様


   お元気ですか?私は元気です。なんてね。

   こっちの学校にはだいぶ慣れたよ。

   一週間後に宿泊学習?ていうのがあるんだって。

   キャンプファイヤーとかするみたい!超楽しみ!

   そういえばね、近所にすっごい綺麗な花が咲いてたの。

   ブン太に見せたくて、同封してみました。

   ピンクが可愛いでしょ?ブン太癒された?

   偶には手紙もいいもんだよね。新鮮!

   じゃあまた今度、電話かメールかするね。

   バイバイ!

                   より











封筒の中には花が2つ3つ。ピンクの花びらが可愛らしい小さい花だった。

ブン太は再び微笑した。花を手に取り優しく眺める。







「確かに癒されるな。花にも、手紙にも。」







ブン太はそっと、手紙をポケットに入れる。

同時に桜が風で美しく舞い散った。