彼女を一目見たとき、自分でも彼女に目を奪われたのがわかった。 目に焼きついて離れなくて、いつの間にか彼女を意識していた。 季節は春。一つ風が吹けば、桜が美しく舞っていた。 紅イヒト 中等部と高等部の校舎の間にある大きな桜の木。 毎年春になるとピンクの花を咲かせ、美しく散ってゆく。 この桜の木を見るのも今日で四回目。 ---高校進学。俺は今日高校一年生になった。 人によっては特別なことかも知れねえけど、 俺はそのまま立海大の高等部に所属するため、たいしたイベントでもない。 外部から来る奴なんて全体の二割程度で、ほぼ持ち上がり。 名前は別として顔見知りばっかりだ。 入学式は10時から。母親に叩き起こされ、意味も無く早起きを強いられた俺は まだ9時だというのに立海大の高等部にいる。いや、正確に言えば校門前。 校門には大きく筆文字で『立海大付属高校入学式』を書かれた看板。 こんな立派な字は誰が書いてるんだろう、なんてどうでもいい疑問をもつほど、俺は退屈していた。 いや、校舎に入ればいいのかも知れねえけど、一時間も前から教室にいると ムチャクチャ張り切っている奴に見えるだろ?それは避けたいんだよ。 このまま家に帰ってまた登校しても遅刻決定。 ふと足元を見れば桜の花びら。それを見て思い出したのが校舎間の桜の木。 (桜でも見てみるか。) 過去に三回も見た大木へと足を向ける。歩いて五分も掛からない。 桜の木の元へ着いた途端、ブワッと風が吹く。花びらが沢山舞い散った。 (うわっ) 俺は思わず目を瞑り、顔や髪についた花びらをとる。この桜の木め。 目をあけて、睨んでやろうかと思ったらそこには先客がいた。 真っ黒い髪に花びらがついていても気にしている様子も無く、 太い幹の下に腰を下ろして、優雅に本を読んでいる女性。 立海大高校の制服を着ていることから同い年もしくはそれ以上と伺える。 彼女をジーッと見ていると俺の視線に気がついたのか女性が顔を上げた。 大きな目をしていて、俺を見るなり目をパチパチとさせている。 やばい、超可愛い。いや、超綺麗。美しい、って感じ。 「何か用ですか?」 彼女は俺に微笑んだ。彼女の優しい微笑みに一瞬我を忘れたが、 首を横に数回振り、意識を取り戻す。 「あー、いや。別にないんだけど。アンタ新入生?」 「うん。今年から立海生。」 「へえ。隣座っていい?」 「いいよ。」 どうして自分でもこんな言動をとったのかはわからないが、 多分、彼女が美しい所為だ。男としての本能が働いたに違いない。 え?変態臭いって?そんな不謹慎な心なんてねえよ。 ◇ どうやら、彼女(というらしい)は外部受験で合格したうちの一人だそうで、 入学式を二時間も間違えたらしい。お気の毒。 それで暇だから本を読んでいたのだとか。 俺は隣に座るに話しかける。 見た目的に近寄りがたそうな女だったけれど、話してみると意外と気さくで 少し親しみがもてた。 「一時間も何の本よんでたんだよ。」 「これ?友達オススメの恋愛小説。」 「へー。恋愛小説か。面白いの?」 「読んでみる?」 そういっては、自分が読んでいた本を俺に差し出す。 首をかしげ、ニコッとわらって「はい。」なんて、 マジ可愛すぎると思うんだけど。 「・・お前。かわいい。つかキレイ。」 「え、はい?い、いきなり何?」 素直な俺の感想を言うとは慌てて、それもまた可愛かった。 俺がククッと笑うとは慌てて顔を真っ赤にして言った。 「な、なに?!」 「いや、なんもねえよ。」 「そう。ならいいんだけど。」 「顔真っ赤だぜ?」 「五月蝿いです。」 紅い頬をしたは再び本を開き読み始める。 俺はただ、隣にいるだけ。 隣で本を読む彼女に声をかける。 「もし、同じクラスだったら・・・・・・よろしくな。」 「・・・同じクラスじゃなくてもよろしくね。」 だからほら、微笑むな。一々心臓がドキドキするじゃねえか。 俺は桜の幹に体を預け、舞い散る花びらを眺めた。 (この女は、俺の中で多分特別な女になる。) ('07 赤也誕生記念『ア』)